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「えー、卒業生のみなさんーー」
校長の声が体育館に響く。
まだ3月の風が冷たいこの頃。いつのまにか卒業式を迎えた。
"先生先生!写真撮って!"
向こうのほうで声が聞こえた。
卒業式の帰り際校庭で生徒がワイワイと写真を撮りあっていた。その中で見つけた、先生の存在。
「いいの?行かなくて。」
「んー、なんかなぁ。」
「わたし、あんたはてっきり先生が好きなのかと思ってたよ。」
「えぇ?…あーまあ、実際そうなんだろうね。」
あの日、自覚してしまった。
憧れだと思っていたそれは憧れなんかではなく、ちゃんと好きだった。
でも今日で会うのも最後で、きっとこの思いは先生にとっては迷惑になる。伝える気なんて、更々ない。
「後悔するかもよ?行かないと。」
「でも、…」
「でもじゃないよ。伝えなきゃいけないことたくさんあるんじゃない?」
伝えなきゃいけないこと。
そうだ、伝えたいことがたくさんあるんだ。先生のおかげで絵を描くのが楽しくなったこと、自分の絵に自信を持てたこと。何よりあなたがわたしに絵を描く楽しさを教えてくれたから、わたしは美術の教師を目指そうと思ったんだ。
気づいたときには走り出していた。
伝えないといけない。あなたに、3年間の思いを。
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