青い絵の具。

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「先生、!」 渡り廊下の先、先生を見つけた。 ゆっくり振り返った先生は一瞬驚いた顔を見せた後、いつものようにくしゃりと笑った。 「どうした?」 「あ、えっと、あの、」 あーなに言うんだっけ。なに伝えるんだっけ。言葉がうまくでない。 久々に見た先生は、相変わらず先生で。その話し方も、立ち方も、笑い方もなにも変わっていない。 「ふっ、走ってきたの?」 先生がこちらにゆっくり近づいてきて言う。 「いや、うん、今日で最後だから。」 「最後か、そうだな。」 「先生、ありがとう、3年間。たくさんのこと、教えてくれてありがとう。絵を描く楽しさを教えてくれたのは先生だったよ。」 「俺は、いいなと思ったから絵を褒めたよ。それだけだよ。」 「それでも、それがうれしかったよ。」 「うん、そっか。」 ヘヘッ照れるな、と先生は鼻を触る。 しばらくの沈黙の後、先生が口をひらく。 「卒業、おめでとう。」 「うん。ありがとう。」 あのね、先生、伝えたいことたくさんあるよ。ありがとうの他に伝えたいことあるんだよ。でもきっと伝えても叶わないし迷惑だろうから、伝えないことにするよ。 先生に触れられたあの日、自覚した思い。憧れなんかじゃないと気づいてしまった。でももしかしたら最初から憧れなんかじゃなかったのかもしれない。 「先生、あの絵、完成したんだ。美術室に置いてあるよ。」 「ほんとに?見ていい?」 「うん、いいよ。それで、その絵、先生にあげる。」 「おれに?」 「最初からそのつもりだったから。」 「ありがとう、楽しみ。」 きっとあの絵が全てだった。あの絵が答えだったんだ。 じゃあ行くね、そう言って先生に背を向けた。振り返らないよ。振り返ったら、きっと泣いてしまう。3年間、ただ先生の笑顔が見たくて、美術室での時間は特別で、キラキラしていて。わたしの青春、そのものだった。 先生、わたしが伝えたかった言葉は、それは、それはね、ーーーー
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