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 帰る方向が同じだった私達は、何となく一緒に駅へ向かった。秋の夜、雨ともなれば外はひんやり寒い。どちらともなく「寒くなってきましたね」なんて言葉は交わしたものの、会話は続かなかった。  森岡さんは必要以上に口を開くことのない物静かな人で、今まであまり話したことがなかった。年齢は違うけど学部も学年も部活も同じで、学生の中では接点がある方にも関わらず、同じ場にいる印象はあっても話した印象は薄かった。  隣をちらり盗み見る。グレーのスーツ、サックスブルーのシャツ、磨かれた黒い靴。社会人入学で在籍している市役所職員らしく、見た目が既に、公務員ですきちんとしてます、と訴えている。そういえば文芸部の最初の自己紹介の時、仕事に役立つと思ったから夜間の2部に入学したのだと聞いた。学費や偏差値や汎用性を理由に公立大学の2部経営学部を選ぶような私とは、まるで違う種類の人なのだろう。  雨足が強くなったような気がした。  森岡さんは何も言わない。
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