ホラーか

1/2
1641人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ

ホラーか

 そこは白っぽい部屋だった。とても広い、しんと静まり返った広い部屋だった。  ……もう、すぐ……捕まえる……  ぼやっとしたシルエットの男が僕に語り掛ける。僕は答えることも出来ずにただそちらへ視線をやる。良く見えないから美醜は分からないけれど、声はしゃがれていて耳に心地よかった。いつもの夢。幼い頃から何度も繰り返し見ている夢だ。  最初は弟とお母さんに、次に友達に相談してみたけれど、デイドリーマーという烙印を押されただけだった。それからは夢で見る男の事は口にしなくなった。この夢がここ二十年間続いていたとしても、誰にも言わなかった。  ぱっと目を開けると見知った天井の、手の届く範囲に大抵のものが置いてある1Kの賃貸マンションだ。  やっぱり夢だった。  ため息とともに額にじんわり浮かんだ汗をぬぐった。胸に手をやると、心拍数が上がって音が聞こえるほど脈打っている。現実味がないわりに酷く焦燥感がある夢で、いつも寝起きはどきどきして気持ちが落ち着くまでに時間がかかるほど。状況的にはホラーでも通じるんだけど不思議と恐怖感はない。  さて今日は休日の土曜日。お昼には親友の果歩とランチをする約束だ。時計を見るともう十一時を回っている。慌ててベッドから起きると手早くシャワーを浴びた。果歩は時間に厳しいからな。  身支度もほどほどにお店までの時間を計算しながら、必要最低限のものをもって家を出た。電車を乗り継ぎ、小走りで待ち合わせのお店へと向かう。清潔感のあるビルの半地下の店へ入ると、先に待っていた果歩が席に座って僕に軽く手を振った。時間、ギリセーフ!  ほっとしつつ、行きつけの居酒屋でいい歳した男女が真昼間から取り敢えずビールを慣行する。この店は会社から近くて、平日の昼間は美味しくて手頃な値段のランチでお世話になっていた。お気に入りの味噌漬けのクリームチーズを、ちょっとずつ味わいながら苦い炭酸を胃に流し込んだ。 「ねー、蒼(そう)。あんた今の会社何年?」 「新卒で入ったから……ええと、七年かな?」  栗色の胸までの艶やかな髪を綺麗にカールした僕の親友は、じっとりと僕を眺めていった。指折り数えて唐突な質問に答えると、秘書課の花である我が親友は派手すぎない品のいいフレンチネイルをビシッと僕に突き付ける。 「あんたそのうち童貞のまま枯れて孤独死よ。恋愛しなさい恋愛」 「ぶっ! う、うるさいなぁ。いいよ僕は! そういうの苦手だし」  ローズピンクのぷるぷるした唇が不服そうに歪んで、テーブル越しに僕の頬を片手で挟み潰す
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!