戦火と便り

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戦火と便り

どおん、どおんと大砲の音が夜の闇と地を揺らす。そこかしこで炎が立ち昇り、黒煙が空気を淀ませる。陸軍少尉第七部隊隊長・一条凛桜(いちじょう りお)は塹壕の端で顔を顰めた。その整った横顔は砂埃に汚れ、黒髪の貼り付いたこめかみに大粒の汗が伝う。  戦況は最悪だ。  敵の不意を突くため幹部が立案した夜襲攻撃作戦は失敗に終わった。あたかもこちらの手の内を見透かしていたかのように、敵軍の集中砲火が続く。塹壕の中は度重なる砲撃に揺れに揺れた。砂壁が崩れ、振動に隊員達は皆よろめき倒れそうになる。 「一旦皆頭を下げろ!」  轟音の中凛桜は声を張り上げた。  この場は一旦引き下がらねばなるまい。先程から無線で上官に退却の指示を請うているものの、返事は「持ち堪えろ」の一点張りでどうにも埒が明かない。敵の大砲の音がより一層大きく聞こえ始め、塹壕の中がまた激しく揺れる。後方の陣営から別部隊に撃たせていた大砲はとうの昔に切れてしまった。このままでは大切な部隊をみすみす業火の中に失ってしまうかもしれない。隊員の中には凛桜が軍学校で見知った顔も多い。その内の何名かは既に息をしていないようだった。この惨状が、ただでさえ酸素の薄い戦場で凛桜の呼吸を一層浅くした。今一度退却の指示を請うため、無線機に震える手を掛けたその時だった。 「危ない!」  部隊の一人が叫ぶ。見ると凛桜の幼馴染で古くからの友人である橋本が、一人塹壕を飛び出し敵陣へ駆けていく。 「橋本!何やってる!」  体が勝手に動いた。思わず塹壕の壁を飛び越え凛桜は友を追う。 「いけません少尉!」 「危険です!」
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