囚われた花

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 凛桜は眼前の光景が信じられず思わず舌から歯を浮かせた。感覚を取り戻した舌がじぃんと熱持ち、歯型を中心に津波のような痛みが襲う。しかし、それどころではない。敵国の皇子の秀麗な顔がすぐ傍にある。伏せられた瞳の上に被さる金の睫毛が美しい。重ねられた唇から彼の熱がじんわりと伝わってきた。  なんだ?  なんなんだこの状況は?  頭が真っ白になりかけたところで唇を離される。凛桜は先程までの激情も忘れ、唖然と目の前の男を見やった。 「落ち着いた?」  堀の深い端正な顔立ちに似合わず柔らかく笑う男。程よく厚い唇が緩やかに弧を描く。その表情はどこか悪戯を仕掛けた子どものように楽し気で、最初の印象とは随分とかけ離れている。何か言葉を発そうとするのだが混乱した頭では何も出てこず、結果凛桜は口をはくはくさせながら酸素の足りない水槽の魚のようになる他なかった。 「良かった。切れてないみたいだな」  力の抜けた凛桜の口元を手で軽く広げるとブラッドは医者のようにその舌を取り出してそう言った。 「凛桜。お前は綺麗だからあまり手荒なことはしたくないのだが」  そう言ってブラッドは自らの上衣の裾を裂くとその細長い切れを凛桜に噛ませ、後頭部できつく結んだ。舌を噛めないようにしたらしい。 「また舌を噛まれてもいけないからな。許してくれ」  混乱のあまり抗議する気力も無くて、凛桜は半ば呆然と皇子のなすがままになっている。 「ああ、それから」
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