朱に溶ける

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 ――お化けみたいな顔をしとる。  幼い頃から、そう言われ、苛められてきた。  ひょろりと身体が上下に長く、目は窪み、頬はこけ、唇は青いのが常だった。それは年を重ね、身体が大きくなるにつれて凄みを増し、大人になる頃には、すれ違った見知らぬ幼児に泣かれるのが日課となっていた。煙草売りの職の為に田舎を出て大阪に住みつけば、あの男は何やら怪しいぞと、特に何をした訳でもないのにひそひそと噂され、友達の一人も出来なかった。  とはいえ、周囲が私をそうさせたのか、私がそうであるから周囲が怯えたのか知らないが、私は性根の方もお化けのように陰湿なのだ。世間話をする相手の一人もいないのも、無理はない人間であった。  誰にも迷惑を掛けず、ほそぼそと生きてゆければよい。そんな風に考え、ひっそりと暮らしていたある日、節介な叔母から『妻に娶れ』と送り込まれてきたのが、茜だった。
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