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こんな私の為にせっせと家事を頑張ってくれる茜の存在は、当たり前だが、私には大きすぎた。そして、茜にとって一番困るのは、私が本当に彼女の事を好いてしまうことであると私は気付いていた。ただでさえ好きでもない男の世話をするのに、その男が自分を好奇の目で見ていたら、気持ち悪くて仕方がないだろう。
私は不器用だった。
恋心を隠そうとして、優しさまで出せなくなって、いつだって小さな彼女に冷たく当たっていたのである。
茜は小さいのに急いで歩こうとするので、よく転んだ。買い物に行くたびに転んだり躓いたりするのだけど、私は一度だって手を差し伸べなかった。
茜の下駄の鼻輪が切れた時でさえ、片足飛びで歩く彼女をじろじろと見ていることしか出来なかった。冷たい人だね、と通りがかった女に罵倒されたのが恥ずかしくて堪らなかったのに、それでも手を差し伸べなかった。臆病な男なのだ。
茜が買い物中に簡易な計算で混乱してまごついていても、私は助け船の一つも出せず、ただ岩のようにがんとして口を噤み、わたわたと指を折っている彼女を見ているだけだった。何とか買い物を終えると、彼女はいつも「ごめんなさい」と悲しげに頭を下げるのだった。
せめて、せめて、私が人並み程度に優しげであれば、私が少しでも器用であれば、といつも思っていた。
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