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20日間
町はクリスマス一色。
どこもかしこもネオンが派手に輝きクリスマスソングが流れる。また今年もクリスマスか。仏教国の日本がキリスト教に変わる一日、そして何故か恋人たちの日と言う名目がついている。クリスマスが過ぎれば何事もなかったように仏教に戻る。おかしいと思わないのか?と彼は思っている。歪んだと言ってもいい。長年一人きりのクリスマスを送るとこうなるのか。
彼の名前は東堂瞬。40歳。20代中盤辺りから今まで恋人なし。モテた時期はあった。あったが体型が変わりすっかりモテなくなった、かといって体型を戻そうともせずにオヤジ化は進んだ。まぁ自業自得だ。
彼に興味を持ち、その頃から側にいる。私は人間ではない。天竺へ行った猿だ。まぁ有名人だろ?だが本人ではない。悟空の髪の毛から生まれた、何十体のうちの一本だ。私の事はどうでもいい。東堂瞬の事だ。
空からは白い粉が舞い降りて消えていく。
雪だ。なんて寂しい男だ。私は彼の肩に乗っているが誰にも姿は見えない。
恋人たちとすれ違い、女同士の人たちとすれ違い、ゆっくりと歩いている。
クリスマスまで20日。
さて、今日東堂は何をするのかな。私は楽しみに東堂を見ている。東堂はアパートに住んでいた。アパートと言ってもかなり上等な方だろう。彼は煙草を吸いながら珈琲を飲み優雅に見える朝を過ごしている。優雅に見えるとは、見えるだけであって実は全く優雅ではないと言う事だ。玄関のチャイムが鳴る。
東堂はめんどくさそうに玄関に向かう。
「おはようございます。私下の階に引っ越してきた佐藤理紗です、よろしくお願いします」と若く美しい女性が言った。
「あ、どうも」
東堂の目は女性に釘付けになった。
「近い歳の方でよかった」
佐藤理紗は言った。
「あ、俺40なんですよ」
東堂から緊張感が溢れ出ているのがわかる。
「あ、すいません、私28です。見た目じゃわからないものですね」
佐藤理紗は微笑む。
「そうですね、俺、東堂瞬です、よろしくお願いします」
東堂は言った。
クリスマスに間に合いそうじゃねぇか?私はニヤニヤしていた。
「これつまらないものですが」
佐藤理紗は箱を渡してきた。
「ご丁寧にありがとうございます」
東堂瞬は受け取る。
さぁ、やっと物語が始まったって感じじゃないか?二人の純粋な恋物語になるのか?いやいや普通の話を描けるような原作者じゃないよな、だったらどうなって行くのか楽しもうじゃないか。
さて、数日が過ぎた。
東堂は理紗の後をつけると言う危ない事を初日からやっていた。こいつはストーカーになるのか?と私も心配している。
佐藤理紗は朝9時に仕事に出かける。
職場は駅一つ先の保育園。園児たちからも人気者、私ほどじゃないけど、西遊記はもっと有名だろ?
男子の保育士からは何度か誘われるが断る。夕方4時退社、電車で一つ乗り、帰りにあるスーパーで買い物。その後近所の喫茶店でゆったりと過ごして帰宅。東堂は把握した。
今後の行動いかんでは私は東堂から去るつもりです。猿だけに。
ところが、だ、信じられない出来事が起きていた。佐藤理紗もまた東堂瞬の行動を尾行していた。一体どういう事?
私は顔を真っ赤にして東堂の後をつける理紗を何度か見た。
どうなってる?両思いなのか?つけられた腹いせにつけたのか?にしては顔を真っ赤にしてつけると言うのは、信じられないが両思いじゃないのか?今宵、理紗は東堂の玄関に立つ。
「あの、東堂さん、肉じゃが好きですか?」
理紗は顔を真っ赤にして言った。
「はい、好きです」
東堂が言った。
「作り過ぎちゃいまして、よかったらどうぞ」
理紗は鍋を差し出す。肉じゃがかぁって言うか両思いじゃんかよ。間違いないだろう。
「ありがとうございます、佐藤さんの手料理が食べれるなんて幸せです」
ん?これは告白って受け取れるんじゃないか?
「私の手料理でよかったらいつでも作ります」
お?理紗と東堂は瞳を潤ませて見つめ合っている。私だったら部屋に入れてやるね。やるっしょ?両思いだぜ、超美人だぜ。だけど理紗も東堂も離れがたい思いだが離れた。
理紗は部屋へ。東堂は感無量の表情で立ち尽くした。
さぁ、これから佐藤理紗と東堂瞬のこれからは?楽しもうじゃない。
東堂はしばらく肉じゃがの香りを堪能して皿に盛り付け食べた。
感動してるよ、東堂瞬。
でも普通に恋して上手くいってはい終了にはならないだろうな。原作者が嫌いなラブストーリーになるものな。
クリスマスまで15日。
はてさて。
西遊記に登場する、猿が髪の毛をふうっと息を吹きかけるとあら不思議、猿が何十体も増えて敵へ向かう。と、その髪の毛の猿の一体が私である。どこからどうなってこの世界の日本の山形市に来たのかはわからないが面白い男を見つけ、ずっと彼の側にいる。さて、佐藤理紗にどうやって鍋を返すか煙草を吸いながら考えているようだ。東堂瞬はすっかりモテた時期の心はなく恋愛初心者の様相だ。言い忘れたが私が東堂瞬の事を言うのは全部私の主観である。東堂が実際何を考えて行動してるのは本当のところはわからない。西遊記の猿だったら心くらい読めるんじゃないの?って言いたいだろうが読めない。よって主観で語る。多分大差はないと思うがね。
はぁとため息をつく東堂。私は4度目だと笑う。上手くいきすぎていて私は何か起きるだろうと確信している。
でも、あれだけの美人が恋人いない?いるんじゃないか?実は肉じゃがを作る予定があって東堂で試してみたとかどうだ?
鍋を洗い、しっかり拭いて、髪を整え、髭を剃り、服を選ぶ。私は爆笑している。鍋を返すだけだろうに何を期待しているのだ。
佐藤理紗の部屋へ。
「あの佐藤さん、肉じゃがとても美味しかったです」
鍋を返す。
「わざわざありがとう」
理紗は微笑む。
また見つめ合っている。
「佐藤さん、クリスマス空いてますか?」
東堂は真っ赤な顔で言った。
さぁ、返事はどうだろう?
とにもかくにもクリスマスまで10日。
東堂瞬と佐藤理紗の恋物語には興味はないが私は何かを感じた。天竺への旅の様々なところで感じた悪者の雰囲気だ。佐藤理紗の部屋の前で似たような雰囲気がした。まさかだよ、でも、私がこの世界にいるのだから他の奴がいてもおかしくない。東堂が誘った時食べようとしたのは気のせいだろうけど。
しかし、東堂はというと幸せそうにしている。「いいよ」佐藤理紗は答えた。私には舌を舐めずり目を見開きニヤニヤしながら妖怪が言ったように見えた。佐藤理紗にも何かついている。猿ではない。妖怪だ。
どうしたというのだ。
「やい、東堂、佐藤理紗は危ないぞ」
私は東堂の耳元で言った。
やはり交流は出来ないか。
さて、どうしよう。
翌日、部屋に理紗がきた。
おかしい、妖怪の類いの感じは全くしない。
理紗の部屋に妖怪がいたということか?
「あの、よろしかったらお買い物に行きませんか?」
「今からですか」
「えぇ、出会ったばかりでクリスマスのプレゼント、わからないので、一緒に····」
理紗はもじもじとした。相変わらず顔は真っ赤にしている。東堂は喜び、今にも庭を駆け巡りそうだ。準備するからということで10分後に一階のところで待ち合わせが決まった。実に微笑ましいじゃないか?理紗と東堂が恋人になったら私はどうする、去るしかないではないか。邪魔者は去る。ちょっと寂しいな。
その日の理紗と東堂はまるで、そう、恋人同士のようだった。
霞城セントラルのホールにツリーが飾られていて二人は手を繋いで見上げていた。
「佐藤さん、俺がクリスマスに佐藤さんと過ごしたいのは······佐藤さんが好きだからです」
東堂は勇気を出して言った。うん、かなり勇気を振り絞ったな。
「東堂さんの気持ち、知ってました。私も同じですから」
佐藤理紗が言った。
なんと、両思いだった。東堂なんかに惚れてくれるとは、嬉しいではないか。よかった。実によかった。
ツリーのてっぺんの星のところからヌッと顔を出した者がいた。角が生え、長い舌をたらし、巨大な目玉をギョロリと動かし猿を見る。妖怪だ。誰にも見えていないのが証拠である。「なぁんで三蔵の部下がここにいるのらぁ」妖怪は私に向かって言った。「何故妖怪がここにいる」私も叫ぶ。「知らんなぁ、気付いたらこんな世界にいたのだよぉ、他の妖怪も同じだて」妖怪は言った。他の妖怪?他にもいるのか?「しかし人間を見守る猿とは恐れ入った、あの暴れ猿が、変われば変わるものだな」妖怪はそう言って跳んだ、下にズンと降りる。私の側である。「楽しんでるか?この世界を?おらは楽しんでるよぉ、猿よ、佐藤理紗とその男は好き合っておる、我々も仲良くしようではないか、元の世界に戻るまでは」妖怪が言った。「やはり交流は出来ないがついた人間から離れられないのか?」私は薄々気付いていたことを聞いた。「そうだ、そして影響を受ける。温厚な理紗につくワシは温厚になってしまう」日々子供たちと過ごす理紗は攻撃的ではない、この妖怪も心が影響を受け戦いは望まなくなったとみえる。「しかし、東堂を本当に好きになってくれるとは理紗はどういう女性なのか」私は不思議だ。「簡単だね、理紗は東堂のいいところを本質を見抜いていたんだな、悪い者ではない気が弱くみえるが実は包み込む優しさを持つ立派な男だと」妖怪は長い舌を私に近付ける。私はやめろと避ける。「理紗のように美しい女性は色んな男を見てきて苦悩してようやく悪意のない男性と出会ったということか」私は納得する。「理紗には上手くいってほしい、切に願う。猿、お前も東堂に同じ感情だろう?」「多分な」猿と妖怪は二人を微笑ましく見ている。しかし猿と妖怪が仲良くとは、この世界は不思議なことが起こる。とにもかくにもクリスマスまで8日。
佐藤理紗と東堂瞬は恋人となって、お互いの部屋を行き来するようになった。という事は勿論あの妖怪も一緒に来る。
理紗と東堂は夕食を共にし会話をし楽しく過ごしているようだ。
始めに断っておくが二人のセックスの描写やそうなる過程は描かないでおく、トイレで大をしたのを描かないのと同じで二人の尊厳のために描写しないでおこうと思う。
つまりは、朝までベッドで過ごすことも増えた。
クリスマスまであと2日。
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