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変化
さて、私は東堂瞬という男と出会う前、有名な西遊記の猿であった頃、豚と河童と三蔵について天竺へ旅をしていた。猿の髪の毛の何十体の一本でしかない私は、この世界へとやってきた。理由はわからない。それ以後東堂瞬の側で東堂瞬を見てきた。話は出来ない。私の姿も見えない。唯一私の姿が見えるのは同じ世界から来た者。
私はその者と親しくしている。妖怪と猿という奇妙なコンビではあるが、郷に入っては郷に従えである。
とにもかくにもクリスマス前日。イブの夜だ。雪が降り町を白く変えていく。その白い雪に混じり地上に降りて形を変えて妖怪になるものが数体いた。なんだここは?とキョロキョロして見たこともない世界に、無視されている事にびくびくして隅に隅に移動していく妖怪であった。そんな事など知らずに私と理紗の妖怪はデートについていた。理紗と東堂は手を繋いで仲良く歩いていた。
「どこに行きたい?」
東堂は理紗を見る。
「瞬といれるならどこでもいいよ」
理紗は東堂の顔を覗きこむ。
なんか恋愛っていいなぁ。私はほっこりする。二人は尽きることなく微笑ましい会話をしながら歩いていく。「猿、あの隅にいる奴ら」理紗の妖怪が言った。「あ、妖怪」私は笑いそうになる。「この世界に来たばかりって感じだなぁ」「そのうち慣れるだろ」理紗の妖怪は笑う。
「戻ってこい!一本も残らず戻ってこい!」
叫び声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。というか私の声だ。空のはるか遠くから聞こえてきた。まさか。まさか。私はビクリとする。「猿、本体が集合かけてるようだな」理紗の妖怪は言った。「そうだな」私は言った。心は決まっていた。東堂の側を離れない。居心地の良いこの世界から離れたくはなかった。
巨大なクリスマスツリーの元に東堂と理紗は立っていた。いい雰囲気だ。
「ねぇ、どっちかの部屋で一緒に住んだ方が家賃楽じゃない?」
理紗は言った。
「そりゃ、そうだけど、同棲?」
「うん」
真っ赤になって頷く理紗と真っ赤になって理紗を見つめる東堂。
私と妖怪は目を合わせる。こいつと四六時中一緒?「なんだよ」妖怪が私に言った。「いや、なんでもない」私は言った。んん、四六時中一緒か。これから先、別れるまではずっと。嫌だなぁ。こんな舌の長い目のデカイ妖怪と四六時中?
とにもかくにもクリスマス前日はこんなもんだ。
クリスマス当日。
朝から東堂の部屋に理紗がいた。
ここで誤解のないように泊まったわけではない。朝部屋に来て朝御飯を作ってくれたのだ。それを二人で食べている。その一部始終を私と妖怪が見ていた。
「なぁ、こっちの世界に来てから何か食べたか?」妖怪が言った。あ、そう言えば、こっちの世界に来てから何も食べていない。なんで?平気なんだ?食べるという行為すら忘れていた。「猿にもわからないか」妖怪は言った。考えたこともなかった。「でもよ、俺は髪の毛の一本だからじゃないか」私は言ってみたが違うだろうと感じていた。別世界の生物がこっちの世界に来ると別世界の生物は平和になる、ただ、元からこっちの世界にいる生物には平和ではないから争いは絶えない。という仮説はどうだろう?あながち間違いとは思えない。
二人は午前中、イチャイチャして、その、性交も含めてだが、のんびりと過ごしていた。窓の外は雪が舞い降りていて地上は白く変わっていた。突然の出来事だった。
「きゃー」という叫び声と「うわっ」という驚きの声が部屋に響く。なんだろうと私は東堂を見る。妖怪も理紗を見る。
二人はみるみる青ざめていく。
私と妖怪は何に驚いてるのか理解していない。
「どこから入ってきた!」
東堂が震える声で言った。はて?どこから入ってきた?誰だ?私はキョロキョロするが誰もいない。妖怪も同じだった。
「あんただよ!猿と変なの!」
東堂が叫んだ。
まさか。なんで?見えるのか?今頃見えたのか?私は嬉しさが沸き起こる。
「東堂、見えるのか?私が?何十年も見守ってた私が見える?」
私は言った。
「猿だろ、喋るのは知らなかったけど猿だ、あと変なの」
「失礼だなぁ東堂、変なのとは何だよ、妖怪だ、いい妖怪だ」
妖怪は苦笑しながら言った。
はてさて突然私たちが見えるようになった東堂と理紗。理由はわからないが出会いから今までをゆっくりと話す。妖怪も理紗に話していた。
そんなわけで私と妖怪は東堂と理紗と交流出来るようになった。
「お猿さん、私と瞬の···その営みも見てたの?」
理紗は私を睨む。
「まさか。私と妖怪は別の部屋にいたよ、一切見てない」
私は慌てて言った。
「でも何で突然見えるようになったの?」
「それは私にも妖怪にもわからない、びっくりだ」
不思議な現象だ。何かの前触れなのかもしれないとは思った。
水がほしい。腹減った。どんだけ歩けばいいんだー。「御師匠さまー!水はまだですか?」猿。「悟空、おまえは後だ、俺は皿が干からびて水がないと死んでしまう」河童。「腹減った、水がぶ飲みしてやる」豚。「お前たち、貪るは餓鬼という言葉を知ってますか?貪りとは欲望が満たされない飢えている状態、つまり今の三人の事を言うのです。餓鬼界の生命状態です。けど砂漠を何日も歩けば腹は減りますし水飲みてーよ」三蔵。
「御師匠さまも修行が足りないね」悟空が言った。前方の砂が盛り上がる。妖怪が姿を現す。「えー、今は無理」河童。「力が出ない」豚。「ということで妖怪さん、出直してくれませんか?」三蔵。「ふざけるな」妖怪は怒鳴った。「ウキッ、俺がやる」悟空は妖怪の前に立ち髪の毛を数本抜いた、フッと息を吹いて抜いた毛が飛ぶ、一本一本が悟空になっていく何十体の悟空が妖怪に向かっていく。妖怪は弾き飛ばす。その数本が妖怪の背後にまわる。と、突然悟空三人の背後に穴が現れた。その穴に強い引力、風?に吸い込まれていく。三蔵、豚、河童、本体と別れた最後だ。
気付いたらこの世界にいて誰からも相手にされず私は成長していた。
「というか誰も見えなかったんだ」
東堂が言った。
「そうだよ、寂しかったよ」
私は言った。
「俺も穴に入ってきた」
妖怪が言った。
「辛かったんだね」
理紗が悲しい顔をした。
「多分三蔵と旅をするより成長出来る世界だな」私は言った。
「東堂と理紗が幸せで俺は嬉しい」
妖怪は言った。
「本当だよ」
私は同感だ。東堂と理紗の幸せが自分の幸せになっている。
「見つけたぞ三蔵法師」
妖怪が酒場に入ってきた。
「待った。水と食事中なんで終わってからにして」三蔵は妖怪に素っ気なく言って食事に戻る。「みーずーうめー」樽ごとゴクリゴクリと飲んでいる悟空。「うめっ、うめっ、うめっ」とにかくあるものすべてに手をのばし食べる豚。「ふぅ、皿も元気になったし俺も」水を飲み煙草を吸う河童。
「馬鹿にしてるよな?こいつら馬鹿にしてるよな?」妖怪は戸惑っていた。シュッと空中へ飛び上がる、如意棒を思い切り妖怪を殴りとどめに頭に如意棒を叩き込んだ。「飯食ってんだ、邪魔すんな!」悟空は怒鳴る。と、席に戻り食事を始める。「まったく食ってるときに来んなよ」猿。「邪魔意外ない」豚。「空気よめよな」河童。「ほんとそうよね」三蔵。「ところで悟空、その五円禿げはどうしたのです?」三蔵は悟空の頭にできた五円禿げを指差す。「何人か戻って来ないんだよ、砂漠で髪の毛」悟空は言った。
豚と河童は爆笑する。「悟空が五円禿げ」豚と河童は盛り上がる。「必ず戻す。一本たりとも逃さない」悟空は誓った。
「戻ってこい!一本も残らず戻ってこい」
悟空は大声で叫んだ。
「んで一本消えて猿はまだ探してる?」
東堂は言った。
「多分ね、昔の私は暴れ猿だったから禿げなんてできたらキレていたろうな」
私は言った。
「いいじゃない、だってせっかく見えたのに」
理紗は言った。
「危険だったよな三蔵法師御一行全員狂ってた、三蔵も含めて」
妖怪が言った。
「三蔵法師も?」
東堂と理紗は不思議な顔をする。
「三蔵は天然なんだよ、豚と河童と私が何かと食べる事ばかりだった」
私は言った。
「いや、正確には食べてる時に妖怪が現れるとキレて空気よめよとか言われる」
妖怪が言った。
「今は違う。成長したんだ私も」
猿が言った。
「約束だよ、この先も見守ってね」
理紗が言った。
「頼むよ」
東堂が言った。
私は曖昧にうなずいた。上手く進むとは思えない。最悪、三蔵法師御一行がこっちの世界に来るんじゃないかと若干の危惧を抱いてる。
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