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さらば猿
さて、クリスマスも過ぎて東堂と理紗は東堂の部屋に暮らし始めた。私と妖怪は茶の間にいる。四人で会話することもあれば妖怪と二人で話すこともある。私が若干の危惧を抱いていたことは起きず、まぁ、平和だった。
私は東堂から煙草を教わった。酒はあちらの世界とは違う味で、それほどきつくなく美味しく飲めた。そして理紗の手料理、絶品であった。こういうように理紗と東堂からこの世界の楽しみと料理の味を覚えていった。
東堂と理紗以外からは私と妖怪は見えない状態は続いていた。何故こういう事になったのかはわからない。私には大切な人ができた。三蔵法師や河童や豚では感じなかった。目の前にいるこの妖怪や、東堂瞬や佐藤理紗である。別れが来るのは感じていた。きっと部外者は元の世界に戻る。自然な成り行きだ。
「猿、旨いか?」
東堂はいつの間にか側に立ち言った。
私は東堂の煙草を吸っていた。三本目だ。
「うむ、旨い」
「猿が吸いすぎるから煙草がすぐなくなるんだよ」
東堂は席に座る。
理紗も四人分のお茶をいれテーブルに置いて席に座る。
「まぁまぁ、ずっと見守ってくれてたのよ」
理紗は言った。
「煙草なんぞ煙いだけじゃ」
妖怪が言った。
「二人が幸せなら···ぁあ···」
私は席から落ちる。苦しい。何が?なんだ?
苦しい。苦しい。苦しい。
心配する声が聞こえてくる。
「戻ってこい、今すぐだ」
私の声?あの時の声?悪い私の。
「旅してろ」
妖怪が長い舌を槍のように声に向けて突き刺す。窓の外に浮いている悟空、その腹に突き刺さり、悟空は髪の毛になる。あ、一本か。
ひらひらと攻撃を受けた悟空は髪の毛に戻って消える。
そして猿からは煙が吹き出て、猿も髪の毛になり消えた。
「猿?猿?さるー」
三人が叫ぶ。理紗の目からは涙が流れ東堂の目からも涙が溢れる。
猿が消えた。
私は暗い闇に落ちていく。
東堂、理紗、妖怪、楽しかった日々は戻って来ないのか?戻りたくねぇ。
なんか出来ないか?
東堂瞬は猿のいた場所を見つめる。
佐藤理紗も腰が抜けたように座り込み、妖怪はニヤニヤと二人の様子を見ていた。
ん?語り手の私は誰か?焦るな焦るな。
妖怪の手に髪の毛が一本。
それから形が作られていく。
「猿参上」
私は妖怪の手から飛び出し消えた場所に立つ。「妖怪、遅いんだよ!マジで悩んでしまったじゃないか」
私は妖怪に怒鳴る。
「違うだろ猿」
妖怪は笑う。
「猿」
東堂と理紗は私を抱きしめてくれた。大切な存在。大切な世界。
「心配かけて悪かった、ありがとう東堂、理紗、妖怪」
猿は照れながら言った。
「でも、本体は?どうするかな」
理紗が聞く。
「あれは私の髪の毛だ。分身の分身?だから大丈夫」
私は笑った。
「さぁ、煙草を吸おう」
私は東堂と理紗の肩を抱いた。
「俺のおかげだろ?猿、恩人に冷たいぞ」
そう、妖怪が機転をきかせ私の髪の毛を抜いてくれたおかげだ。
「妖怪、感謝してるさ。妖怪って呼びづらいな、なんか名前をつけよう」
「本当か、いい名前にしてくれよ!」
妖怪は笑う。
さてさて、私の物語はこれで終わり。これからも東堂瞬、佐藤理紗、妖怪(まだ名前未定)そして私、猿。東堂の恋の物語と私の物語。あなたの肩には誰が乗ってる?
妖怪?三蔵法師御一行の誰か?
暗い闇に落ちていく。
しかし、妖怪め早くしろって。
私の髪の毛に移ればいいだけなんだ。
早くしてくれよ。仲間だろー。
妖怪め!
理紗ぁ
東堂ぉ
お、きたか?
よっしゃ登場は決めてやるぜ。
猿参上で行こう。
ん?終わった?
何が?え?物語終わった?いつ?
猿は俺だよ!
え?もう何十体も?
えー?まだ出てもいないのに。
マジで?終わり?
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