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十二月六日
寒くなってくるこの時期は、寄り道をして帰りたくなる。
多分それは俺が高校生ながら一人暮らしをしている、という事情もあるからだろう。そうなってしまった原因は、一緒に住むはずだった父の転勤が土壇場で立ち消えになり、結局自分だけ上京して高校に通うことになってしまったせいなのだが。
あの冷たい部屋に、一人で帰るのがひどく億劫だった。秋までの暖かい時期ならばさほど気になることでもないというのに。真っ暗な部屋の、電気をつける瞬間が言いようもなく淋しいとでも言えばいいのか。図体のデカイ男子高校生が、何女々しいことを言っているのかと自分でも思うのだけど。
だから基本的に、十一月に入ってからというもの、部活が終わってからは近くのカフェで一時間ほど時間を潰してから帰ることにしていた。そんなことをしたって、帰る家が明るくなるわけでもなければ、寂しさがマシになるわけではない。ただ、少し整理のつかない感情を先延ばしにするだけだと知ってはいたけれど。
暖房が聞いていて、誰かしらの気配を感じる店の中。少しだけ、ほんの少しだけ逃げたいと思ってしまうのだ。
特に今日、十二月六日は特に。
「あ、ごめん神谷。今日は先に帰っててくれ」
うちのバスケ部の練習はとにかくハードだ。コーチに容赦なくしごかれまくり、くたくたになって帰る頃にはとっくの昔に太陽は遠くへと沈みきっている。
そんな中、いつも駅まで一緒に帰るバスケ部の友人達が俺にそう言ってきた。特に同じく一年生のポイントガード、黒須が両手を合わせて拝むように謝ってくる。
「ちょっと今日、みんなと寄るところあってさ。店の場所が反対方向なんだわ。ごめんな」
「あ、そうなの?みんなで?なんだよ秘密の相談でもすんのか。俺ハブ?」
「そういうんじゃねーけど、マジでごめん!今日だけだから!」
バスケ部の空気は、嫌いではない。練習は厳しいどころでなく厳しいが、全国制覇を本気で狙うメンバーと一緒にやるバスケは楽しかったし、仲間思いの彼らと過ごすのは気持ちのいいものだった。バスケ馬鹿とゲームオタクばかりが揃っているということもあって話があうのも有難い。特に黒須とは同じクラスということもあり、ツルむことの非常に多い友人の一人だった。
だからこそ、ちょっとだけ不満に思う。何で今日に限って、だ。自分がこの日を嫌っていることを、少なくとも彼は知っていたはずだというのに。この様子だと、まるで覚えていないらしい。
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