十二月六日

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「……まあ、そういう日もあるわな。わかった。じゃあな」  それでも。先輩達も一緒にどこかに行くというのなら、きっと大事な用事なのだろう。それを強引に呼び止めるほど、俺も大人気ないつもりはないのだ。少しだけ不機嫌が出てしまったかもしれないが、どうにかそう言って彼らに手を振った。――今日はいつもよりも長く、カフェに居座ろうと思いながら。  駅前にあるカフェは、俺にとってはほっと息をつくことのできるお気に入りスポットの一つだった。コーヒーショップではあるものの、サイドメニューが非常に豊富。特にサンドイッチは、運動部所属の男子高校生の腹を満たすに十分ながっつりメニューも揃っている。  落ち着いた茶色を基調にした内装に、一人席が多いというのも有難い。一人でお茶をしたり御飯をしたり、も割と抵抗なく行うことができる。店員も親切で、それでいてうっとおしくアレコレ勧めてくるということもない。一人で、それでも誰かの気配を感じて明るい場所にいたい――そういう人間には、実にうってつけの店と言っていいだろう。  俺はいつものようにカフェオレとビッグサンドを頼むと、観葉植物の隣、窓際の席の一番奥に座ることにする。窓の外の景色を見つめて、大きく一つ息をついた。 ――日本人って、マジで単純だよなあ。宗教も何もあったもんじゃねーつーか。  十一月になった途端、一気に町の飾り付けはハロウィンのオレンジからクリスマスの赤緑へとシフトチェンジした。一晩で一気に交換しなければいけなかったであろう担当者達はさぞかし大変な思いをしたことだろう。  寒さがきつくなり、クリスマスソングが流れ、一気に世間は浮かれモードに突入している。どの店も、店内にはこじんまりとツリーを飾っているし、コンビニに入ればクリスマスのお菓子やらくじ引きやらセールやらのポップが目立つ。十二月とは、そういう時期だ。そしてこれらも、二十五日が過ぎれば一気に正月モードへ切り替えられることだろう。  キリスト教なのやら仏教なのやら。楽しければなんでもいい、という日本人らしい文化ではあると思う。別にそれそのものに、文句をつけるつもりはない。それでも俺は、どうしてもクリスマスが――この時期が、好きにはなれない理由があった。 『航平(こうへい)君、お誕生日おめでとう!あと、メリークリスマス!』  多分、同じような悩みや苛立ちを抱えている人間は、自分一人ではないはずだ。  十二月六日――つまり、今日が俺の誕生日なのだが。十二月生まれは、宿命のように親から受けがちな扱いが一つある。つまり、クリスマスと誕生日を、いっしょくたにして祝われがちということだ。  俺の誕生日は、いつもクリスマスと一緒にお祝いされ、プレゼントがあわせて一個にされてしまうことも珍しくなかった。俺がクリスマスに対して苦い気持ちを抱くのも当然だろう。自分だけ損をしたようで嫌な気持ち、というのもあったがそれだけではない。己の誕生日を、それ単品で祝われないということは――まるで自分を大事にされていないようで、胸が締めつけらるような思いをしたというのが最大の理由だ。  わかっている。両親に、そんなつもりなど微塵もないだろうということは。  それでも俺は、誕生日とクリスマスは全く別のものとして祝って欲しかったのである。それはまったく別のイベントで、対等以上であってほしい存在であったのだから。
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