十二月六日

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「誕生日おめでとおおおおおおおおお!」  突然、黒一色の世界が切り裂かれた。目に入ったのは、光。  そしてクラッカーの音。 「……は?」  きょとん、と目を丸くする俺は、すっかり色とりどりのテープまみれになっている。  何故、俺の家に当然の如く、バスケ部のみんなの姿があるのだろう。  黒須が、からっぽになったクラッカーを持ってニヤついているのだろう。  先輩達が、四角い巨大な箱を置いた丸テーブルの横に、あぐらをかいて待機しているのだろう。 「よっしゃ!神谷ガチで驚いてるべ!大成功!」 「案外イケるんだなー、こんな使い古したドッキリ大作戦!」 「ですです、イケますイケます!俺超天才でしょ?でしょ?」 「おう、天才天才」 「ちょ、ちょっと待て待て待て。全くついてけてないぞ。黒須も先輩達も一体何やってんの?ていうか鍵は?」  そこまで口にしてから、あ、と俺は気づいた。そういえば、以前俺が寝坊して練習日を忘れた日に、慌てて黒須が俺の家まで呼びに来てくれたことがあって。そのままなし崩しで、合鍵を持たせておくことになっていたのではなかったか。  というか、以前ゲーム大会をやった日も、黒須は俺に先んじてさっさと家にあがりこみ、勝手に準備を進めていたような。 「黒須から聞いたぞー、誕生日くらい教えろよ神谷ー」  バスケ部の部長が、丸テーブルの上の箱に手をかけて言う。 「大食いのお前のために、超特大のケーキ用意してやったぞ!喜べ!」 「ぶっ」  そこから登場したのは、まるでエロゲか何かのようにどピンクで、イチゴがてんこもりに盛られた巨大なケーキだった。俺は思わず吹き出してしまう。確かにイチゴが好きだとはみんなに言っているし、甘いものも大好きだし、大食いであるのも間違いないけれど。いくらなんでもこれは、特大すぎる。ざっと五人分くらいのサイズはありそうなものではないか、一体どこで買って来たのやら。 「面白いプレゼント、みんな一人一個用意しておいたからな。ありがたく受け取れよバーカ!あ、ちなみに二十四日もクリパすっからな、お前の家で!ちゃんと予定空けとけよ!あとそれより前にカノジョ作るとか裏切りナシだかんな!?」  楽しそうに笑う黒須に俺は。なんだかもう、胸からいろいろ突き上げてしまって。  滲んできた視界を誤魔化すように、大袈裟なくらい笑った。 「おまっ……お前らなあ!俺に内緒で、勝手に決めてんじゃねーっての!!」  なんだかもう、長年ウジウジと積み上げてしまっていた、誕生日やらクリスマスやらの微妙な感情が。今日の一日だけで、全部忘れてしまえそうな気になっている。  令和元年、十二月六日。  十六歳の、俺の誕生日は――笑い飛ばしたくなるくらい、幸せな光でいっぱいになった。
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