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出来そこないのお姫様
わたしの親は、幼い頃に離婚した。
理由は知らない。お父さんは出て行ってしまって、当時のわたしとお母さんも引っ越した。貧しかったわたしの家庭は、ますます貧しさが増した。お母さんはいつも「ごめんね。お母さんがこんなで。夢羽は、しっかりとした、優しくて、思いやりがあって、品のある上品な子になるのよ。」と、わたしの頭をなでた。
うれしくて、あたたかくて、心の中にポチャンと、絵の具を垂らしたみたいに、じわじわと、わたしの心は満たされた。
貧しかったけれど、幸せだった。
でも、そこまでだった。
お母さんは、幼いわたしの知らないところでずっとストレスを抱え込んでいて、あるときから目を閉じて、二度とその目をあける事はなかった。
わたしは小学1年生だった。たしか。
その後、施設に預けられたわたしは、すぐに、無事、里親が見つかった。
うれしかった。わたしを思ってくれている人がいると知って。自分は恵まれているんだなと思った。
でも違ったのだ。わたしの親になった、七瀬なつみさんは、世間にいい人に見られたいという理由でわたしを貰い、その後はわたしに冷たくあたった。
その旦那ーつまり、わたしのお父さんになった七瀬サトシさんは、1度も会話を交わしたことはなかった。今もない。
家の雑用はわたしの役目。この役目がなくなると、わたしはここに住む資格がなくなってしまう。今はただ、役目を果たし、いつか出会う、王子様を夢見て、励む日々が続く。
愛を貰えないわたしは出来そこないのお姫様。いつか、王子様に認めてもらえるような、しっかりとした、お姫様になりたい。そしてお母さんの期待に応えて、しっかりとした、優しくて、思いやりがあって、品のある上品な大人になりたい。
だから今は頑張らなきゃ。
でもね。そこまで苦しくないんだ。
だってわたしには、夢の中で、王子様に出会えたから。
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