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「あ~化け物がいる!!」
「ほんとだ!! あいつ化け物だから、お母さんが近づいちゃダメって言ってた!!」
窓から覗く友達が、口々に覚えた言葉で罵倒する。それはまるで、おぞましい何かの群れのようだ。
「人間じゃないんだって~」
「え~? じゃあ何なの?」
「宇宙人?」
「アンドロイドじゃない?」
「あっぶな~い」
「防衛しないと、UFOに連れ去られるんだぜ」
そう言って、長帚や雑巾、バケツを持ってくる。
「皆の者~やっつけろ~!!」
「お~!!」
一斉に、子供達がりなに襲い掛かった。
――お母さんに怪我をさせたら、お父さんに怒られる。
女に怪我をさせるんじゃないぞと、父は口を酸っぱくして息子達に言って聞かせた。将来子供を産む体だから、大事にしなくちゃいけないらしい。
母も、女の子の体に傷なんかつけちゃ駄目よ? 着る服に制約がついちゃうんだから。と良く分からないことを言っていた。
両親は時々、そう言って良く分からないことを子供達に言って聞かせる。意味が分からずに言葉だけ覚える息子達は、「は~い」と返事をしながら、良く分からないけど怪我をさせたら駄目なんだなと理解した。
りなは慌てて母から離れ、駆け出す。
「痛い痛い、そんなので叩かないで」
部屋の中では埒が明かず、開いていた外へと通じるドアから、上履きのまま飛び出した。すると子供達は更に遠慮がなくなって、持っていたバケツを投げつけ、拾った石や木の実、砂を投げつけた。
「ちょっと、やめなさい!!」
母が慌てて、窓辺から声を張り上げる。
逃げ回っていたりなが、木の根に足を取られてべしゃっと転んだ。
これ幸いと、子供達が寄ってたかってりなを殴り、蹴りを入れる。りなは頭を両手で抱えて、その場に丸くなった。
「痛い痛い、やめて、殴らないで、蹴らないで!!」
丸まって、頭を庇う。
一昨日まで一緒に遊んでいた友達の豹変ぶりに、りなは「どうして?」と心の中で疑問を投げかける。
「痛いよ、やめてっ」
蹴られる衝撃に、身体が悲鳴を上げる。
「やめなさい!! 寄ってたかって情けない!! 怪我させたんだから、慰謝料請求するわよ」
母の声が、傍で聞こえた。
ふわりと抱き上げられて、安心する母の香りが鼻腔をくすぐる。
「痛いって言ってるでしょ? 私もあんたたちを蹴るわよ? いいわね?」
そう言うと友達が、「りなのおばさんに蹴られる」と方々に散っていく。
「りな、帰りましょ?」
「お…かあさ……」
ぐすぐすと鼻をすすり、涙をボロボロとこぼす。そんな息子を見て、母は愛しい我が子に笑みを向けた。
「ほら、泣かないの。男の子でしょ?」
「ん…うん……」
次から次へと溢れてくる涙を隠すように、小さな手で母の首に抱きつき、その胸に顔を埋める。
「綾がいないと、甘えたなのねぇ」
ふふっと笑いながら、母が歩き出す。
その歩く振動とぬくもりが心地よくて、りなはぎゅっと、抱きつく手に力を込めた。
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