双子

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双子

 自宅に帰ると、頭から流れる血を止めるようにタオルを当て、その上から固定ベルトのついた氷枕を当てて冷やすと、母はりなを着替えさせて、ふ~っと息をついた。 「手を洗っていらっしゃい。うがいも忘れずに。とりあえず、血が止まるまで大人しくね」  洗面所で手を洗うと、弟の(あや)が寝ているベッドの傍へ来て、膝を抱えて(うずくま)る。  双子の弟は、自分そっくりの顔だ。友達も幼稚園の先生達も皆、見分けがつかないようだった。  綾の目は覚めていて、コンコンッと咳をする。熱が高いのか、目が少し潤んでいた。 「りな兄さん、どうしたの? 幼稚園は?」  何も知らない綾が、首だけをこちらへ向けて、そんな言葉を発した。 「綾、幼稚園、もう行っちゃダメなんだって」 「?」 「もう来なくていいって、言われたんだって」 「どうして?」  純粋な問いに、りなが言葉に詰まる。止まったハズの涙が、再びうりゅっと溢れてきた。 「……僕が、変な力を使ったから」  自分を責めるように言うと、更に小さく丸まる。  肩を震わせて泣く兄を見て、綾は「ふ~ん?」と分かったのか分からないのか判断しかねる返事をすると、手を伸ばしてりなの頭をよしよしと撫でた。 「りな兄さん、お外の様子、教えて」  幼稚園から帰って来ると、なかなか外に出られない綾は、そう言ってせがむ。  りなは涙を手で拭うと、コツンっといつも通り綾の額に、自分の額を押し当てた。  そうすると何故か、自分が見てきた映像が頭の中で再生される。綾の頭の中に、りなが見てきた映像が流れ込んでいるようだ。  ちなみに、手を繋ぐと口を開かなくても綾と会話が出来た。内緒話をする時は好都合である。  そして一番上の兄の架名とは、そんなことは出来ない。二人だけの特別で、二人だけのホットラインだ。  両親は、双子だからお互いのことが良く分かるんだろうと、どうやらこのホットラインの存在を信じていないらしい。  でも、そんなことはどうでも良かった。りなは綾が、綾はりながいれば、まるで一心同体のように、それだけで安心できたから。 「……痛かったね、りな兄さん」  今日の分の映像を見終わった綾が、一言そう言った。その目から兄を心配して案じてくれているのが伝わってくる。 「……うん」  再び、ベッドの傍で(ひざ)を抱えて丸くなる。(ひじ)や膝など、ところどころ血が(にじ)んで、()られたであろう場所は(あお)(あざ)になっていた。 「りな? あら綾、起きてたの?」  片手に救急箱を、もう片手にはコップとお菓子が載った盆を持った母が戻ってくる。スカートからのぞく足には、蹴られたのだろう、(あお)(あざ)が出来ていた。 「とりあえずりな、その怪我、先に消毒しましょ」  テーブルに盆を置き、床に救急箱を置いて蓋を開けた母が、りなの怪我を確かめながら消毒してバンドエイドを貼っていく。 「こんなもんかしら。ここはちょっと範囲が広いから、お父さんに一度見てもらいましょ。全く、あんな乱暴な子達だなんて」  腹を立てて口を尖らせる母を見て、りながおずおずと口を開いた。 「お母さん、その怪我、ごめんなさい。僕のせいで……」  謝ると、母が「何のこと?」と目を瞬いてから思い至ったのか、ああと足の(あお)(あざ)に目を向ける。 「りなのせいじゃないでしょ? もうっそんな顔しないのよ? 誰が何て言ったって、りなも綾も、私の可愛い息子に違いないんだから」  おやつ食べてなさい。と、テーブルを部屋の真ん中へ移動させて、りな達に座って食べるように(うなが)す。 「ちょっと、洗い物して洗濯物干してくるから。大人しくしてるのよ?」  そう言って、子供達を置いて母は台所へと向かった。
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