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残された双子は、テーブルの上に置かれたおやつを見て悩んだ。
二人分にしては、少し多い気もする。でも分けて食べてしまえる量でもある。
「……りな兄さん。これ、架名兄さんの分はないんだよね?」
「……さぁ? 食べちゃっていいのかな?」
ここにもし架名の分があったとしたら、全部食べてしまったらきっと怒るだろうなと、双子は顔を見合わせて相談する。
「とりあえず、取っとく?」
りなが、一つ二つとお菓子の袋を3等分する。
「架名兄さんだけないの可哀相だから、取っとこっか」
3等分すると、1個余った。
「綾、余った。半分こでいい?」
「うん、半分こで架名兄さんには内緒にしよう」
二人揃って内緒を共有できる面白さに、口元が吊り上がる。
「兄さんには内緒」
「半分少なくなっちゃうから、内緒」
笑い合いながら、おやつのクッキーを二つに割って、二人で頬張る。
「おいしい」
「あまい」
りなの機嫌が、ちょっと直ったようだ。そのことに気が付いた綾は、ほっと息を吐いた。
電話の呼び出し音が鳴る。
母がスリッパをパタパタ言わせて、電話を取りに行ったのが音で分かった。
「は!? え!? ……はい、分かりました」
驚いたような声がしてから、再びスリッパがパタパタと忙しなく移動する。
「どうしよう!! 私、一体どうしたら……? そうか、将也、将也に電話しなくちゃ」
母の大きな独り言が、父の名を呼ぶ。携帯電話についている鈴の音がして、母は何やら父にマシンガンのように用件をしゃべり続けているようだった。
「お父さん、きっとイラっとしてるよ」
「お前はバカなのかって、きっと思ってるよね」
父がどう思っているのか推測して、二人はくすくすと笑い合う。
喉が渇いたと、コップに手を伸ばしてジュースを口にする。入っていたのは、グレープフルーツのジュースだった。
「オレンジじゃない」
「すっぱい」
「お母さん、間違えた?」
「色、オレンジとちょっと違うのにね」
む~と二人揃ってすっぱい顔をすると、気に入らないとばかりに、テーブルにコップを少々乱暴にコンっと置いた、つもりだった。盆の縁にコップが乗って盆が跳ね上がり、上に乗っていた菓子がバラバラと散乱する。慌てて盆に手を伸ばせば、その手が当たってコップをひっくり返した。
べシャッと、コップの中身が零れた。テーブルの上と服が濡れて、そのうちテーブルからジュースが滴り落ち、床を濡らす。
「……お母さんに、怒られちゃうね」
「証拠隠滅したら、バレないんじゃない?」
この間の刑事ドラマで覚えた単語を使ってみると、何だかちょっとカッコイイ。凄く大人になった気がして、何でも上手く出来てしまうような気がする。
りなが、洋服ダンスからハンカチを取り出して机を拭いた。
綾が、ティッシュを箱ごと取ってきて床を拭く。
「りな、綾、食べた?」
母が戻ってきた。そのスリッパの音は、まるで怪獣が歩く音のようにも聞こえる。
キイィとドアが開かれて、双子は「あ」と固まった。
――バレた。証拠隠滅、失敗。
「りな! 綾!! 洗濯物増やさないでちょうだい!!」
「「ごめんなさい」」
そうして二人揃って着替えさせられ、母は再び、洗濯機を回すことになったのだった。
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