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翌日の朝。
両親は子供達を連れて近くのショッピングセンターへと買い物に出かけた。
どうやらお客さんが来るらしい。その為の買い出しのようだった。
「お菓子!!」
「一人一つまでね」
いつも通りのやりとりをして、兄弟3人でお菓子売り場へと駆けて行く。
その後を、いつもはついてこない両親がついてきた。
お菓子売り場でどれにしようと選んでいる子供達を横目に見ながら、父と母は何やら悩んでいるようだ。
「架名、りな、綾、今晩、何が食べたい?」
「お刺身!!」
「カレー!!」
「ハンバーグ!!」
ピーマンとニンジンとトマトが嫌いな架名の為に、両親はそれと分からないよう、様々な料理に混ぜて食べさせようとする。それが分かってか、架名だけ混ぜられようもない料理の名前を挙げるようになった。
「刺身か。今買うと鮮度が落ちるな」
「父さんが捌けば?」
「やめて頂戴。台所は手術室じゃないのよ」
以前、付き合いで漁港へ出向いた際、鯛を丸まる一匹買ってきた父は、台所で新品のメスを用いて器用に解体した。それはまるで、マジックをみているかのようだった。
「これが魚の内臓だ。口から食べたものがここを通って・・・・・・」
解体というより、解剖の授業に近い説明を息子達にしながら、それは器用に鯛のお造りを作ってしまった。包丁ではなく、メス一本で。ある意味芸術作品である。
母はそれを見て、何か食べる気が失せるんだけど、と眉をひそめていた。
「分かった。何かお肉でも焼きましょう」
結局、子供達が挙げた候補以外の料理になったらしい。
必要な食材を買い込むと、レジを済ませて買い物袋に詰めていく。
「嫌な感じだな」
買い物中も感じた、嫌な視線、ヒソヒソ話。それに耐えきれずに、父がそう口にした。
「お父さん」
りながキュッと父のズボンを掴んで、早く帰ろうと目で訴えた。そんなりなを、父がよいしょと抱き上げる。
「こういう時は、気にしないのが一番よ、りな」
母が、詰め終えた荷物をカートに乗せて笑った。
「お前が悪いんじゃないだろ? 人の噂も七十五日だ」
「七十五日? そんなに長いの?」
りなが悲しそうな顔で言うと、両親は目を見合わせる。
「そうか、子供の七十五日は長いか」
「私達には、あっと言う間だけどね」
母がよしよしとりなの頭を撫でると、りなはギュッと父の首に抱きつく。まるで、向けられる鋭い視線から逃れるように。
「よし、帰りましょ」
そう言って、一家は車へと向かったのだった。
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