32人が本棚に入れています
本棚に追加
りなが見せた表情に、父が少しほっとした顔をする。友達の記憶を消したと疑われてから、あの無邪気な笑顔を見せることがなかったのだ。
「お茶の用意が出来たけれど……」
母が伺うように部屋を覗く。
それに気が付いて、牧が「華菜」と声をかけた。
「子供達と遊んでてくれ。俺は将也さん達と話をしてくる。雅史、こちらについててくれ」
「は~い」
「分かりました」
そう言って、牧は父と母に目を向けると部屋を後にする。
パタンと閉まったドアを、子供達が不安そうな顔で見つめ続ける。それを見た華菜が安心させるような笑顔を向けた。
「今晩お世話になるから、ちょっとお話ししに行っただけよ。そんな不安そうな顔しないで? この怪我、痛そうね。大丈夫?」
りなの頭に巻かれた包帯と、架名の頬に貼られたバンドエイドにそっと触れた。
「大丈夫、です」
「ちょっと、痛い」
返答自体は、年齢差が出ているのだろう。「そう、早く治るといいわね」と、華菜が痛々しい顔をした。
「さて、じゃあ痛みを忘れるような楽しい事しましょう!! 何して遊ぶ?」
まるで保母さんのような笑みを向けた。
架名がどういうつもりだろう? と内心で首を傾げる横で、りなと綾は「遊んでくれるの?」と単純に目を輝かせた。家の外に出られないから、退屈していたのだ。その上、ここ数日のように自分達に冷たい目を向けない人間に会えたのが、嬉しかったのもあるだろう。すぐに警戒心を解いた。
「じゃあ人生ゲーム!!」
「トランプ!!」
「そうねぇ、牧がトランプ強いと思うから、お話し終わるまで人生ゲームで先に遊びましょうか」
「やったぁ!!」
りなが、いそいそとおもちゃ箱から人生ゲームとトランプを出してくる。
綾がベッドを抜け出して、りなと一緒に人生ゲームの箱を開けて準備を始めた。
架名は、警戒するように二人の大人の様子を伺っている。
華菜と雅史は、そんな子供達の様子をつぶさに観察していた。
――どうやら、この状況に一番参っているのは架名らしい。
そう、大人達は結論付けたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!