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「どうしました? 一体何が……」
階段を駆け上がってきた両親が、子供が一人通れるくらい開いたドアをバッと開ける。
そしてその光景を見て、息を飲んだ。
「架名っ……」
母は手で口を押さえてその場にへたれこみ、父は唖然として立ち尽くす。
いつの間にやら明かりのついた部屋で、架名はわなわなと震えた。
――失敗した。もう駄目だ、殺されてしまう。
りなも、綾も、父さんも母さんも、そして、俺も―――
架名は、その場に力が抜けたかのようにぺたりと座り込んだ。
どうしようもなく、涙が溢れる。
俺が失敗したせいで、家族が殺されてしまう。
――― 俺が失敗したせいで……
涙が、パタパタと枕に落ちる。大粒の涙が、止めどなく雨を降らせた。
もう、終わってしまったのだ。
何もかも、終わってしまった。短い人生だった。
新しいランドセルを背負って、小学校に入学して、新しい友達も出来たし、家に帰ったら幼稚園から帰ってきているりなと勉強したり、病弱な綾に絵本を読んだり……。ここ数日は日に日に増えていく包帯やガーゼを見ながら、家の中で過ごすことが増えてしまったけれど……。
もっと生きたかった。
綾が回復する頃にはもう夏になっているから、セミを捕まえに行こうと約束をした。夏休みになって父さんがお休みを貰ったら、遊園地に遊びに連れて行ってもらえるのを楽しみにしていた。今年は海にも行こうかと、テレビを見ながら話していたのだ。
――だがもう、それも叶わない。
もっと生きたい。もっと、もっと……。きっと、楽しいことが待っているはずだから。
――まだ、死にたくない。
止め処なく溢れる涙を拭おうと、架名は無意識に包丁から手を離した。すると包丁は支えを失って、カランッと倒れる。
牧はそれを拾って傍に控える雅史に渡し、雅史は包丁を出窓に置いた。
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