異常なし

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「孝明さん、お久し振りです」  母が電話越しに挨拶をすると、「ああ、久し振りだ。元気そうで何より」と、この状況にそぐわぬ挨拶を孝明が返した。 「あ、そうだ。孝明さん。りなが気功(きこう)を使ったなんて可能性、あると思いますか?」 「気功(きこう)?」  思わぬ問いに、孝明が丸椅子にちょこんと座って、足をプラプラとしているりなに目を向ける。りなは自分に目を向けた孝明を、顔を上向けて見上げた。 「そりゃ、完全に無いとは言えないだろうが……。そんな修行を積ませたのか? 将也くん」  自分の子供を使って何を実験しているのやらという、胡乱(うろん)眼差(まなざ)しを父に向ける。  気功って何だろうと、りなは首をコテンっと傾げた。 「まさか。そんな無駄な修行を積ませるくらいなら、医者にすべく医術を叩き込みますよ」 「医者に?」 「最近、論文を読む時間がないんで、息子達にオペを押し付けて、自分の研究に没頭したいと思いまして」  父はどうやら手術が得意らしい。だから病院にも重宝がられているらしかった。でも本人は、論文を読んだり研究したりする方が好きなようだ。家には大量の医学書が積まれている。 「ちょっと将也、子供達の将来を勝手に決めないでちょうだい。私は、子供達には自分の好きな道を歩かせるつもりでいるんだから」  電話越しにキャンキャンと母が吠えた。父が、うるさい女だと言わんばかりの目を向ける。 「じゃあ、息子達が医学の道に進みたいと思えるようにすれば、文句はないな?」  どうあっても、自分の研究時間を増やす為に、息子を医者にしたいらしい。りなは、お医者さんかぁと、ぼんやりと将来の夢を考える。 「3人いたら、まぁ誰か一人くらい、医者になってくれるだろう」  そう口にして、退屈そうにプラプラと足を揺らすりなに、父は期待を込めた目を向けた。
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