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「牧様、何やら不穏(ふおん)嘆願書(たんがんしょ)が届いたようです」  王宮内がざわついている原因を調べに行っていた雅史(まさし)が、困惑した表情を浮かべて資料を牧に手渡しながら報告した。 「不穏な嘆願書?」 「はい。王宮のすぐ傍の町に化け物のような能力を発揮した子供がいて、気味が悪いから討伐(とうばつ)して欲しい。という嘆願(たんがん)があったそうなのですが……」 「化け物のような能力?」  不思議な力というのなら、この国には西城家という超能力一族がいる。それは広く知られている話なので、国民に拒絶反応が顕著(けんちょ)に起きるというのは考え(にく)いのだが、化け物と称されてしまう原因が何かあったのかもしれない。と牧は思った。 「それが、よく分からないのです。“一緒に遊んでいた子供の記憶が抜け落ちたようだ”ということと、“白詰草の花が青く染まった”ということくらいしか」 「記憶が抜け落ちた? 単に”忘れた”だけじゃないと、何故言える?」 「突然言動がおかしくなったようなのです。まるで赤ちゃん返りのような状態になったと」 「弟妹が出来て、親の気を引くために赤ちゃん返りする話は、子育てあるあるだと思うが?」 「それがその子供に弟妹はおらず、広場で遊んでいたら急にそういう状態になったと。その直前に化け物と呼ばれる少年が、彼の額に手を当てた時に白詰草の花の色が青く染まったことから、彼が何かしたのではないかという憶測が広がり、この嘆願書に結びつくことになったようなのです」 「成程な。被害が出たから化け物認定して、討伐して欲しいと言い始めたのか。国王がアレなせいで、民衆の心まで荒んできたな」 「自分達に災厄が降り注がないようにする為には、目を向けさせるモノがあれば安心だと、そう思ったのね」  華菜が悲しそうな顔をして、窓の外に広がる街並みに視線を落とした。  法令がきちんと機能しなくなってきている。裁判をしても、権力者の意のままに判決が下ることも昨今では珍しくない。法令ですら、昔では考えられない非常識なものが普通にまかり通って交付され始めている。  一則の暴走が日に日に悪化の一途を辿っているのを、民衆も肌で感じ始めているのだ。そしていつの間にか、持ち得ていた真っ当な思想までも汚染され始めている。 「事が事なので、西城家にも確認をしました。何らかの異能を発現した可能性があるので、保護した方が良さそうだと、ご当主が(おっしゃ)ったそうです。場合によっては、西城家で引き取ると」  西城家は、王家に代々仕える家柄だ。  その職務は、国の平和を守護すること。任務としては、国が荒れたら王を殺してでも民を守ろうとする、国民ファーストを貫く家柄である。また、特殊能力を持つ人間を多く輩出する、いわゆる超能力一族として知られていた。 「そうか。隼人(はやと)さんが動いてくれるなら安心だ。それで、西城家はいつこの子供にコンタクトを取ってくれそうだ?」 「それが……」  雅史が口ごもる。牧は嫌な予感を覚えて、資料から目を上げた。 「西城家で保護するので、嘆願(たんがん)された討伐(とうばつ)の執行を停止して欲しいと申し出たところ……棄却(ききゃく)されたそうです」 「棄却(ききゃく)? (まさ)、それ本当なの?」  窓の外を眺めながら話を聞いていた華菜が、口元を手で(おお)って声を上げる。 「はい。このままでは、数日以内に捕縛命令が(くだ)るでしょう。そうなれば……」  言葉を(にご)した。その末路(まつろ)は、口にしなくても分かる。
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