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自分のデスクから引っ張り出した椅子に鞄を置いて就業の準備をしていた中根は、ふと気づき、佐々木に再び視線を遣った。
「でも佐々木さん、本とか読むんですか? あまりイメージないですけど」
佐々木がくるりと椅子の向きを変え、嬉しそうに笑う。
「読まない。だから今日の夜、本屋さん付き合って」
そういうことか。思わぬお誘いに失笑すると、腕をとんっとグーで小突かれる。
「ふふ、いいですよ、もちろん。行きましょう」
即答してから、俺も本とか詳しくないですけど、と一応言い添えると、「そんな気はしてた」と笑われた。それでも俺でいいんですか、と続けるのはさすがに野暮だろう。
「駅前ですか?」
「そうしようか。わー、楽しみになってきた! 仕事がんばるよっ」
背筋を伸ばして後ろ髪を結ぶ佐々木に、俺もです、と相槌を打った。経験はないが、読書もきっと思うより楽しいはずだ。栃木への観光旅行に得るものがあったのと同じように。
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