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「佐々木さん、写真たくさん撮りますね」
中根は風景写真をインターネットにアップしたり、まるで日記代わりのように頻繁にSNSを更新するタイプではなかった。それもあり写真をあまり撮らないのだが、佐々木は昨今の女性像の典型と言えるほど撮影回数が多い。今朝旅館を出発するときにも青空ともみじがキレイだとスマホを構えていたし、先程車から降りた際も雰囲気があるといって杉並木を撮っていた。そういえば一緒に食事に行くときにも、長時間ではないが撮影していたような気がする。
SNS映えかあ、と思っていると、佐々木がこちらに背を向けたまま口を開いた。
「帰ってから、こんな場所あったなって思いながら見るの楽しいでしょ? 後で思い出したいことがあった時には撮るの」
中根はなるほど、と相槌を打って、佐々木の後姿を眺めた。勝手に邪推していたのが恥ずかしくなる。自分よりもよほど思い出を大切にしているわけだ。
「いいですね、そういうの」
「そうでしょ」
佐々木は振り返ってにっこり笑った。
「お待たせ、じゃあ行こ」
「もういいんですか? 急かすつもりではなかったんですけど」
「だいじょーぶ。しっかり撮ったよ。後で写真送るね」
佐々木は親指と人差し指で丸を作った。それ以上言及するわけにもいかず、中根は「それなら良いんですけど」と笑顔をつくった。佐々木が頷き返して、青木邸に向かっていく。
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