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「性格悪い」
後ろから七村がぼそりと呟く。中根はうっと呻いた。
「……やっぱりそう思います?」
「どこからどう見てもね」
七村は冷たい口調で吐き捨てると、中根を追い抜いて佐々木の肩を叩いた。何事か話しながら、青木邸正面の階段を上がり、館内へと二人が消える。
水を差した自覚があるだけに言い返せなかった中根は、階段の前で立ち止まって息を吐いた。小さい階段だがどうも足を踏み出す気になれず、なんとなく壁を眺める。遠くから見る分にはただの白い壁に見えたが、近寄ってみると一定の凹凸が繰り返されていた。角ばっているとも尖っているとも取れる不思議な模様だ。松ぼっくりの鱗片に近いような気もする。何気なく左から右に視線を動かして眺めているうちに酔いそうになり、慌てて目を逸らした。
「はあ……」
にわかに疲れたような気になり、中根は肩を落とした。するとドアが開く音がして、次いで佐々木の声に呼ばれる。
「あれ、中根くん! 入っておいでよ、すっごくキレイなお家だよ」
顔を上げると、佐々木が一階のベランダから手を振っていた。中根が落ち込んでいる間に佐々木と七村は順当に館内探索をしていたようだ。中根は館に沿って舗装されている道を歩き、佐々木に近づいた。
「やっぱり憧れですか? 真っ白な洋館って」
「理想の生活って感じ。優雅にさ、子供と一緒にクッキーとか焼きながら旦那さんの帰りを待つの。赤いジャムが乗ってるかわいいやつ」
石垣のぶんだけ建物の背が高いので、珍しく中根が佐々木を見上げる形になる。柔らかな髪を風に揺らして微笑む佐々木に見下ろされ、綺麗だな、と素直に思った。
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