旧青木家那須別邸

4/5
前へ
/44ページ
次へ
「佐々木さん、そういうの似合いますね。白いベランダにレースのカーテンに紅茶でアフタヌーンティー、みたいな」 「え、本当? 優雅っぽい?」 「優雅かはともかく」  佐々木は「えー」と口だけで不満を表明した。リラックスしているのか、恐れ多くも日本遺産の手すりに頬杖をつき、にこにこしてこちらを見ている。まだ昇りきっていない太陽の光が、彼女の笑顔を照らす。温かい光に透けた髪と瞳が綺麗で、中根は思わず息を飲んだ。 「……写真」 「え?」 「写真、撮ってもいいですか」  中根が急にカメラマンを申し出たので、佐々木は少なからず驚いたようだった。もともと大きい目がさらに開いている。 「嫌ですか?」 「え、えっと、ううん! でもなんか、照れるね。最近自撮りばっかりだったから……」  佐々木は眉を下げて「じゃあお願いしようかな」とスマホを取り出そうとした。 「あ、いいですよ、俺のスマホで」 「えー。加工アプリ、入ってないでしょ?」 「なくても十分ですよ」  佐々木はいやいや、現代人だから、フィルター必須だから、と少しごねていたが、中根がレンズを向けると観念したように居住まいをただした。 「可愛く撮ってよお」 「任せてください。っていうか、なんで棒立ちなんですか。さっきのままでいいですよ、ほら肘ついて。笑って」 「肘ついて、って! 注文細かい」  言われるままに体勢を戻した佐々木が、変なの、と笑う。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加