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大山参道
「いや、やっぱりきれいですね、紅葉」
車を降りると、降るような紅葉が一面に広がっていた。名高い大山参道のもみじ並木はやはり伊達ではない。中根が上を向いて瞬くと、佐々木が「中根くんのお目当てだったもんね、もみじ!」と合いの手を入れた。目当てはどちらかというとあなたでしたが、とはとても言えず、ええ、と返事をする。
青木邸の後で松方別邸、那須野が原公園、千本松農場と詰め込み気味に各地を回ったので、もう日没が近い。夜のライトアップがすでに始まっており、白い光が下から葉の赤を透かしている。上に行くにつれ光が届かなくなって暗く夜闇に溶けていくのが、また趣深い。
三人は感想を言い合いながら慰霊牌に向かって歩いていった。澄んだ空気に、話し声と玉砂利の音が吸い込まれていく。
「うわっ」
佐々木がにわかにバランスを崩して中根の肩にしがみついた。慌てて手を伸ばし、佐々木が体勢を立て直すのを助ける。
「ごめんごめん、大丈夫……なんか踏んじゃった」
立ち直った佐々木がえへへ、と気恥ずかしげに言うのを聞いて地面を見ると、砂利に交じって薄黄色の実が数えきれないほど落ちていた。「銀杏ね」と七村が呟く。顔を上げると、正面の墓所の周りだけを黄色いイチョウが囲んでいる。参道と一線を画すように色彩ががらりと変わっていることに気づき、自ずと背筋が伸びる。
慰霊牌に近づいた三人は、誰からともなくそっと手を合わせた。
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