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「……行きましょうか」
一番長く頭を垂れていた七村が呟いたのをきっかけに、三者おもむろに踵を返すと、黄色のイチョウ並木を抜けて、もみじの道に戻った。少し歩いて、ふう、と息を吐き出す。
「エンジンかけておくわ」
そう言い残し、七村が足を速めた。佐々木がありがとう、と声を掛けると、ひらと手を振る。ライトで照らされた道を歩いていく後姿が様になっている。
中根が七村の後姿をぼんやりと眺めていると、横を歩いていた佐々木がしゃがむのが横目で見えた。膝を抱えて小さく丸まり、何やら地面に手をついている。中根も止まると、彼女は一枚の落ち葉を拾い上げた。
「みて、これきれい。真っ赤だし、汚れもないし」
片手に見つけた葉を持ちながら、もう片手で新たに拾っては、これは虫食い、これはちょっと色が薄い、と選別にかかっている。
「持って帰るんですか?」
「そう。やっぱり紅葉狩りならね。中根くんはいいの?」
水を向けられ、中根は瞬いた。小さい頃は確かに、出先で葉やら貝やらを拾ったものだが、だいたいは帰ってから処遇に困ってすぐ捨ててしまった気がする。学校の課題で落ち葉を画用紙に貼り付けて飾ったことはあったかもしれないが、どのみち今はしない。
「拾っても、うまく使える気がしないので。やめときます」
「そっか。言っても私も拾った後どうするか考えてないけど」
佐々木は笑って立ち上がった。「まあ、なんとかする」と言いながら、数歩歩いてはまた立ち止まって葉を拾う。
「足元、気を付けて」
「あは、ありがと」
佐々木を残し、中根は車に向かった。運転席に七村がいないので一瞬戸惑ったが、よく見ると奥の窓ガラスの向こうに背中が見える。
中根は回り込み、車のボディにもたれかかっている七村に声をかけた。空を見上げていた七村が、首を傾げる。
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