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「あら、何かしら。奈緒ちゃんといちゃいちゃしなくていいの?」
「やっぱり二人きりにしてくれてたんですね」
「しょうがないでしょ。今日の中根くん、ずっと奈緒ちゃんのこと好きって顔してたわよ」
笑みを含んだ瞳で見られ、中根は「はは、まあ」と眉を下げた。
「今すぐってわけではないんですが。俺、佐々木さんと付き合ってみたいと思ってるんですが、どうですか」
「どうですかって何よ。反対してほしいの?」
「いや……旅行前に相談したので、一応報告というか」
七村は「別にいらないけどね」と頭を振った。中根は苦笑し、言葉を続ける。
「ですよね。別に聞いてほしいだけなんですけど」
「なあに」
「佐々木さん、すごく心が豊かな人ですよね」
それは今日一日を通して、中根が何度も感じたことだった。青木邸での写真の一件もそうだが、彼女といると自分がいかにつまらない物の見方をしているかが浮き彫りになるようだった。彼女は日々を楽しむべくして楽しんでいるのだ。あの笑顔が魅力的なのも頷ける。
「佐々木さんと付き合って一緒にいたら、俺も豊かな人になれるかなって思いました。こういうの、利用ですかね」
七村は喉の奥で笑った。
「良いんじゃない。付き合ってもらって性格矯正すれば?」
「ですかね」
ふふふ、と二人で笑いあう。まあ泣かせたら殴るけどね、と嘯く七村だったが、ちらと見ればその横顔は笑っていた。
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