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「遅い」
不機嫌そうな七村の声を聞き流して、足裏の筋肉に力を込める。近年よっぽど全力疾走などしていないので一瞬不安がよぎったが、幸い足の長さが違う。すぐに佐々木のすぐ後ろまで追い付いた。佐々木は運動に適さない暖かそうなブーツに動きを取られ、重たげな足音を立てている。
「佐々木さん、待って! 何ですか、邪魔って」
「……来ないでいいよ! ほんとに、いいから、ちょっとしたら戻るから!」
「よくないです! 止まってください」
「やだ!」
頑なに逃げ回る佐々木を追いかけ、しかし無理矢理に引きずり倒すのも気が引ける。思いあぐねながら声をかけては拒否され、しまいには並走しながら走っているような形になった。どうにもならないうちに参道を走り抜け、もはや先程の墓所が目の前に迫る。
さすがに墓前で追いかけっこをする気にはならなかったらしく、佐々木はやっとスピードを落とした。たたらを踏んで止まったが、なおも中根に背を向けて拒絶の姿勢を示している。狭い背中が丸まって、余計に小さく見える。
「っていうか、来ないで、いま泣いてるから!」
刺すような声音。中根は息を飲み、佐々木の腕を掴んだ。
「──泣いてるんですか?」
びくりと震える佐々木の正面に回る。佐々木は手を振り払おうと腕に力を入れたが、中根に離す気がないと悟ると、逃走を諦めたようだった。内股ぎみに立ち、手で顔を覆う。せっかく拾ったもみじはどこかに捨てたのか、両手が空いている。
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