19人が本棚に入れています
本棚に追加
「……すみません」
口から自然と謝罪がついて出た。佐々木がいまだにうるんでいる目を見開く。
「えっ、ううん。なんで中根くんが謝るの? 勝手に私がなんか泣いちゃっただけだし、こっちこそごめんね、びっくりさせて」
「いや……」
「恋人でもないのに、おかしいよね」
そう言われてしまえば、返す言葉が見つからない。現状、中根もだが佐々木にしても、自分の気持ちをはっきりと相手に表明していないのだ。恋人でないことのデメリットを、ここにきて突き付けられる。目の前にいるのに謝ることすらろくにできないだなんて。
いっそここで告白してしまえば。中根はふと思い立った。自分が好きなのは七村ではなく佐々木だと言ってしまうのはどうか。しかし今日やっと、いずれは告白しようか、という気持ちになってきたところなのだ。こんな中途半端な状態で恋人同士になってよいものか、何しろ相手は本命だ。
黙り込んだ中根を、今だ半泣きの佐々木が不思議そうに眺める。
と、追い付いてきていた七村が口を開いた。
「奈緒ちゃん、私からもごめんね。勘違いさせるようなことをしたみたいで」
中根は佐々木の腕を離して立ち上がった。佐々木も気まずそうに中根から離れる。
「あ、ううん……」
佐々木は七村にも謝ろうとしたらしく口を開いたが、七村の発言がそれを遮った。
最初のコメントを投稿しよう!