大山参道

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 七村が笑って、まあまあと取りなす。 「戻ってご飯いただきましょ」 「うん、あ! 今日は梨のワインがいいな」 「いいですね。そうしましょう」  言いながら中根は腰を曲げ、目に入った中で一番赤いもみじを拾った。土を落としながら虫食いの有無を確認し、佐々木に向ける。持っていきますか、と聞くと、佐々木はこくんと頷いた。両手で大切そうに胸におし抱く様子が微笑ましくて、何だかほっとする。  車に戻って窓の外の景色を眺めていると、ジーンズのポケットに入れていたスマホが震えた。何の通知かと画面を点けると、七村からのメッセージだった。 『迷いがあるうちに手出さないでね。覚悟決めろ』  突然のカミングアウトは助け船だったらしい。ちらりと運転席の七村を見ると、彼女は薄く微笑んで窓の外を見ていた。ありがとうございます、と送信し、自分もスマホをしまう。  時間が経つにつれ、流れていく風景が紅葉から温泉街のそれに変わる。それでも「おみやげ」と書いた大きな旗やご機嫌そうな老齢の夫婦などを見ているのは、それなりに面白いのだと中根は知った。
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