19人が本棚に入れています
本棚に追加
佐々木奈緒
「中根くん、おはよう。みてみて」
出社一番、席に向かっていた中根は佐々木に呼び止められた。
おはようございます、と返事をして手元を覗き込むと、ラミネートされた赤いもみじが蛍光灯の光を反射していた。周りのラミネートフィルムはシルエットに沿って丸く切ってあり、それ以外装飾もしていないのが素朴でほんのり愛らしい。中根は「へえ」と目許を緩めた。
「あの時拾ったあれですか?」
佐々木がにこやかに頷く。きれいに持って帰りたい、と帰りの車内で四苦八苦していたのを見たが、その甲斐があったらしい。
「自分で作ったんですか? ラミネート機なんてご自宅にあるんですね」
「それが違うんだなー。アイロンがあればできちゃうんだよ」
「へえ。知らなかったです。なるほど、確かに熱処理できればいいんですよね、一枚くらいなら。物知りですね、佐々木さん」
「えへへ。私も旅行の後で調べたんだけどね」
相変わらずの行動力だ。さすが、と唸ると、佐々木が自慢げに笑んだ唇にもみじをあてがう。
「いいでしょ。しおり」
中根はそうですねと頷いた。次にもみじや花など見に行く機会があれば、自分も拾って帰ってもいいかもしれない、と思う。手元に思い出が残るというのは、きっとあたたかいことなのではないかと。
最初のコメントを投稿しよう!