佐々木奈緒

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佐々木奈緒

「中根くん、おはよう。みてみて」  出社一番、席に向かっていた中根は佐々木に呼び止められた。  おはようございます、と返事をして手元を覗き込むと、ラミネートされた赤いもみじが蛍光灯の光を反射していた。周りのラミネートフィルムはシルエットに沿って丸く切ってあり、それ以外装飾もしていないのが素朴でほんのり愛らしい。中根は「へえ」と目許を緩めた。 「あの時拾ったあれですか?」  佐々木がにこやかに頷く。きれいに持って帰りたい、と帰りの車内で四苦八苦していたのを見たが、その甲斐があったらしい。 「自分で作ったんですか? ラミネート機なんてご自宅にあるんですね」 「それが違うんだなー。アイロンがあればできちゃうんだよ」 「へえ。知らなかったです。なるほど、確かに熱処理できればいいんですよね、一枚くらいなら。物知りですね、佐々木さん」 「えへへ。私も旅行の後で調べたんだけどね」  相変わらずの行動力だ。さすが、と唸ると、佐々木が自慢げに笑んだ唇にもみじをあてがう。 「いいでしょ。しおり」  中根はそうですねと頷いた。次にもみじや花など見に行く機会があれば、自分も拾って帰ってもいいかもしれない、と思う。手元に思い出が残るというのは、きっとあたたかいことなのではないかと。
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