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「言ってないから見合いに、ああいうことになって。すみません」と頭を下げる。「普通の結婚は無理で」
「――そう」
「パートナーもいます。2年つき合ってる年下の。いきなりこんなこと――」また頭を下げる。
「そうですか」
「ええ」
「わかりました。驚いたけど」
「はい」
「お見合いは私も断ったんだし、だまされたなんて思いません。お気になさらないで下さい」
英司は黙って小さくうなずく。
「わざわざそんな――」そこで渚は気づく。「なぜわざわざ言いに?」
「ええ――」と英司は目を伏せている。
「なんです?」こんなカミングアウトは不要なこと。
「これは善意のことなので、怒らないでほしんですが」と英司はまっすぐ渚を見る。
「ええ――」渚は予感がした。
「幹男から渚さんのこと、聞きました。幹男は僕が、渚さんを紹介してほしそうな、そういうカン違いをして、諦めろって意味で、渚さんは無理だと」
「そう――」予感が当たって渚は目をそらす。
「彼も聞いたのは、最近らしく、菜月さんに」
「アウティング?」
「でも善意です。菜月さんだってそうだろうし、夫婦ふたりのあいだだけ」と英司は首を振る。「幹男はほかの誰かに言うようなヤツじゃありません。そこは信じてやって下さい。僕もあいつのことは――いや」
「いや?」
「いえ、僕は彼にも、自分がゲイだと言ってないんで」
「――そう」
「普通に男の友人で、20年近く。だから信じてるって言うのは、なんか――そんなヤツじゃない。話しても差別するようなヤツじゃない。実際渚さんのこと話してる時も、そうだった。でも自分のことを話すのは――勇気がなくて」
「わかりますけど」渚が今まで打ち明けた友人は菜月を含めて2人だけだった。「で、なぜそれを私に?」
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