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英司が幹男と上野の居酒屋で待ち合わせたのは半月後。幹男は披露宴のあと新婚旅行でハワイに行き、その土産があると英司は呼ばれた。
「いいのかよ新婚なのに飲み歩いて」
英司が来たのは待ち合わせ時間の7時ちょうど。
「うまくいってっか?」
「あぁ、まぁ」と幹男は先に来て奥の座敷に座っていた。「これ土産」とABCストアの袋を出す。
「お、サンキュー。どれどれ」と英司があけると中身はトランプだった。外国人女性のヌードモデルが1枚1枚違ったポーズで絵柄になっている。「またベタなもん買って来たね。バカだろ?」とツッコんだ。
乾杯を終えてつまみが揃うと「いや実は、謝ることあって」と幹男は真顔になった。
「誰に。俺に?」
「二次会で紹介するって言ってたあの子、憶えてる? あの子のことで」
「なに。いいよ。いいって言ったろ」と英司は首を振る。ビールを飲む。
「そお?」
「頼んでないじゃん俺」見合いのことは先日言いそびれて今さら言えない。
「だったらまぁ、いいんだけど」と幹男は目をそらす。「別の子紹介するよ。もっといい子」
幹男の態度が引っかかり「彼氏いるって?」と英司は聞いた。「別にいいけど」
「やっぱ気になる?」
「『やっぱ』ってなにさ。なってないよ」
「ホントに?」
「しつけーな」と英司は苦笑する。「そんなン言われたらどんどん気になってくるだろ」と冗談で言うが、
「うん――」と幹男は真顔のまま笑わない。
「なに。なんなの。なんかあんの」
「ま、二度と会うことないだろうしいいか」
「え?」
「レズなんだ彼女。レズビアン。女が好きで」
「――そうなの?」
「ついこの前カミさんに聞いた。新婚旅行の帰りに、飛行機で。俺は初耳で驚いて。あんな綺麗なのにもったいねーよな」
「そう――」そうとわかると英司はいろいろ腑に落ちた。
「カミさんは大人になってから聞いたらしい。学生時代は言えなかったんだね。知ってからも別に、それ以外は普通だし、変わらずつき合ってる。性格はさっぱりしててむしろ楽だしって。いい人はいい人。俺も知らずに何度か会って話したけど。でもまぁ、そんなわけだから、しょうがない。ほか探すよ。今いないんだよな? どんなタイプがいいの最近」
***
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