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2分後。水を持ってきたタイミングで渚は「このまえお台場で、お会いしましたね」と言った。
メニューを見ていた英司は「ええ、ご挨拶しなくて」とお辞儀する。
「私は菜月の、新婦の高校時代の友人で」
「ええ」と英司はうなずく。「僕は幹男の、大学時代のサークル仲間で」
「何か聞きました? 私のこと」と渚が聞くと、
「いえ――」と英司は目をそらす。
何かある気がしたが聞きすぎも自意識過剰と思い「すごい偶然ですね」と渚は微笑する。「驚いた」
「なんか、やっぱり縁があるのかもって」
「縁?」
「あ、お忙しいですね今」と英司は少しひきつった笑顔で渚を見上げる。「どうぞ。まだ決まってなくて」と他の仕事に戻るよううながしてメニューをめくる。
「無理になら、ご注文はいいです」と渚は言った。
「え?」
「何かご用があっていらしたんじゃないですか?」英司の態度はそうとしか思えなかった。
「まぁ――」と英司は目を伏せる。
「ただ食べになら、嬉しんですけど」それ以外は迷惑だった。見合いで名刺を渡したのを後悔する。「何かあるのかなって、それでこちらにご案内したんです」個室に案内したのはとっさの判断だった。
「座っていただく時間、ありますか」と英司は真剣な目で見上げる。
「ええ――」と渚はうなずき「わかりました」と英司の正面の椅子に座る。
「すみません」
「ううん、気になってると仕事に障るし」
「なるべく、なるべく早く話します」
「なんでしょう」
「実は――」英司は深呼吸する。「僕は、ゲイなんです」
「え」
***
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