出会い

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出会い

見合いは3月下旬の日曜日。場所は都内のホテルのラウンジで窓から見える庭園の桜が満開だった。 「お店はどうなの渚さん。儲かってる?」 世話人は大橋勝枝。不動産店のおかみで根っからの世話好きだった。 「ええ、まぁまぁ」と水谷渚はうなずく。34歳と聞いていたが杉浦英司にはもっと若く見えた。美人のせいかもしれない、と思う。服装はそれなりにきちんとしていたが地味めで、それでも目を引くぐらい顔立ちとスタイルが整っていた。胸も大きい。 「英司さんはあれよね、エアコンのなんとか」と大橋勝枝は続ける。 「技術開発を」と英司が答えると、 「そうそう。難しいことしてるの。頭いい」と持ち上げる。「でも出会いがない。緊張してる?」 「え?」 「硬くなってるような」 大橋勝枝の不動産店は横浜市戸塚区にあって英司の実家と同じ町内だった。見合いに同席する英司の母とは昔から知り合いで、英司も実家を出る前は会うと挨拶をし合う関係だったが『硬くなってる』とわかるほど親しいつもりはない。それでも勝枝は親しげに、 「そりゃそうよね。こんな美人目の前にしたら」と笑う。 「いいえ」と渚が謙遜すると、 「あら、渚さんだけじゃなく私らもよ」と勝枝は英司の母と渚の母を見る。「美人たちに囲まれてって意味」 「あ」と渚が固まったので、 「ええ、まぁ」と英司は笑った。「ヘヘヘ」とヘラヘラする。それで勝枝や母親ふたりは笑う。英司はフォローのつもりだった。自分がピエロになれば渚は助かるはず。断る相手に嫌な思いはさせたくなかった。どんな相手でもなるべく褒めようと決めていた。    *** 電子書籍を発売中です。作者の自己紹介、または「あらすじ」の下部にあるHPから購入サイトにお進みいただけます。ぜひ。
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