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フレンチレストラン「プレジール」の前を英司が通過したのは7月最初の金曜日。夜。 渚はバーカウンターの奥にある事務室から出てレジに向かい、ガラスのドアのむこうに人影を感じて見ると英司だった。 英司は歩道からちょうど店内を覗いたところで目が合ってしまい、無視できずに会釈する。 渚は会釈してドアに行き、あけると「どうされました?」と声をかけた。 「あ、杉浦です」と英司はまた会釈して名乗り、 「ええ、勿論、憶えてます」と渚はうなずいて「お食事に――」と窺うと、 「あ、ええ、そうですね」と英司は腕時計を見る。「そういう時間ですね。食事に」と繰り返す。 「おひとりでらっしゃいますか?」 「うん、そう、ひとりで」 「どうぞ。いらっしゃいませ」と渚は微笑で店内に戻る。ドアをあけて迎え、 「はい」と英司はうなずいて店内に入る。 「近くにたまたまお越しとか?」それで店を覗いてみた、とも考えられた。 「いえ、そういうわけでもないんですが」と英司は首を振る。 「どうぞ。ご案内いたします」と渚はホールに向かい、どの席にしようか迷って個室のドアをあける。「どうぞこちら」と微笑する。 個室を覗いた英司は「あ、こんないいとこ、ひとりなのに」とためらったが、 「ええ、今日はあいてたので」と渚はうなずき先に入ってドアを支える。「どうぞ」 英司は席に向かい、渚は追いついて椅子を引く。「ありがとう」と英司は一礼して着席し「そうですね」と苦笑する。「普通は予約するもんですよね、こういうお店は。突然来ちゃって」 「ううん、いきなりも大歓迎」と渚は椅子を離れると隅に置いたワゴンの上のメニューを取る。「お気になさらないで下さい」 「はい」 「こちらメニューです」とひろげて英司に渡す。「今お水をお持ちします」と微笑する。    *** 電子書籍を発売中です。作者の自己紹介、または「あらすじ」の下部にあるHPから購入サイトにお進みいただけます。ぜひ。
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