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この道を君と歩む
まだ僕が子供の頃、通っていた将棋教室の先生がこんな事を言っていた。
世の中には将棋の駒と同じくらい色んなタイプの人間がいる。
チームの輪の中で絶対的なリーダーシップと存在感を誇る王将タイプの人間。
生まれながらにずば抜けた才能を持つ飛車角タイプの人間や目の前の障害を上手くすり抜けていく桂馬タイプの者。
様々な駒がひしめき合う世の中でふと、考えた事がある。
果たして今の僕、羽田勤20歳を将棋で例えるなら何になれるのか。
答えはすぐに出た。
きっと自分は何の才能もなく、少しずつしか前に進めない『歩』にしかなれないだろう。
「……ちょっと寒いな」
朝の4時に目が覚めて、ラフな格好のまま散歩に出かけたためか冷えた早朝の空気に肩が竦む。
橋の下を流れる川のせせらぎに耳を澄まし、深呼吸をしながら心を落ち着かせていくが、まだ左右の手はブルブルと震えていた。
やがて、その震えは早朝の寒さから来ているものではない事に気付いた僕はそっと自分の両手をジーンズのポケットへとしまう。
今日は運命の日だ。
日本将棋奨励会三段リーグ。
それは32名の才能を持ち合わせた男女が己の持つ棋力の全てを盤面にぶつけて挑む公式大会。
参加者の中でリーグを勝ち抜いた2名だけが四段に昇格しプロになれる。
今日はその最終日であり、僕の現在のリーグ内成績は2位だ。
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