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今日、何としても四段に昇格したい。
四段に上がり、プロになれば収入も上がる。今まで将棋の勉強にかまけていた僕の面倒を見てくれていた両親に恩返しも出来るようになるだろう。
そして何よりも、金銭面の不安が無くなれば大切な人へこの気持ちを伝えることだって出来るはずだ。
「勝ちたい……」
ポケットの中に入れた両の拳がいつの間にか強く握られていた。
僕の1つ後ろの順位に付けている女性棋士の真壁杏子三段は今日リーグ内下位の人と対戦する。
真壁三段とは自分もリーグ内で一度対戦させてもらったが、良くも悪くも基本に忠実な手を使う方で堅牢な美濃囲いを崩すのはかなり骨が折れた。
その時は運よくこちらが勝てたものの、正直どうして勝つことが出来たのか不思議なくらい彼女は強かったのを覚えている。
勝負の世界に絶対はないが、実力的に見て真壁さんが今日負けることは考え辛い。
もし仮に、今日僕が負けるとリーグ内成績は彼女と並び延長戦をしなくてはならなくなる。
それだけは絶対に避けたい所なのだが、その為にはこれから戦う相手に勝つ必要があるのだ。
「しかし……その相手というのがなぁ」
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