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その後、ケンはマリを連れて好き勝手に歩いた。けれどそこは、水族館やカフェなど、マリが以前ケンに行きたい所があると言っていた場所だらけだった。
「なんかケンらしくない。どうしたの?」
カフェで紅茶を飲みながらマリは訊いた。
「どうもしないさ。ただ、たまにはこんな風にしてやるのも悪くないかって思っただけだ」
「怪しいわね。いつもなら飯食わせろとか、金貸してとか言ってるのに」
「飯食わせろとは言ったことあるが、金貸せとは言ったことねえ。後、それを言っていたのは高校の時までだろ。お前の中じゃ俺はまだ高校生のままかよ。あれから、何年経ってるか分かってんのか。俺もいい加減、ちゃんと大人の男になったんだぞ」
ケンが悔しそうにマリを見ながら言った。マリはケンの意外な表情に少し心が動く。
「そうだ。これ受け取ってくれ」
ケンが鞄から真っ白な封筒を取り出した。
「何これ?」
マリを受け取りながら訊く。
「帰ったら開けてくれ。中は誰にも見られるなよ。それじゃあ、そろそろ行くか」
そう言ってケンは立ち上がろうとしたが、そのままゆっくり地面にゆっくり倒れこんだ。
「――ケン?」
マリは一瞬なにが起きたのか分からなかったが、ハッとして倒れたケンのそばに寄った。
「ケン!大丈夫!?」
しゃがんだマリの腕をケンが力強く握りしめた。ケンは体を震わせながら上半身を起こし、マリの唇に軽く自分の唇を合わせた。
ドサリ。
ケンの体は地面に吸い寄せられ、マリの腕を掴んでいた手もマリからずり落ちていった。
マリは何が起きたのか理解できなかった。突然ケンが倒れ、突然キスをされ、そして、こんなにも満足気な表情で、ケンが動かなくなってしまった。
「あなた、この方のお知り合いですか?」
誰かが救急車を呼んでいたのだろう。救急隊員に声を掛けられるまで、マリはケンのそばでじっと動けないでいた。
救急隊員の問いにマリは頷く。
「先ほど、この方の逝去を確認しました。親族の方の連絡先は――」
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