きみはシロじゃない

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「遊ぼうよ」  何度、言われただろう。その言葉。  いつも通り本屋に行こうとしていた。俺は一人暮らし。友人はいるが、シロと遊ぶようになってからは、もっぱら彼女と出かけるようになっていた。  ふと見たものは、電柱だった。  信号待ち、いつもは見かけないものが貼ってあった。  何気ない仕草。  だが俺は…信号が青になったことに気づけないほど、頭が空っぽになっていた。  電柱に貼られたそれは、ポスターだ。 【探しています。****さん15歳…】  行方不明の人探し。  名前、年齢、体型、服装、そして写真。  俺は、笑っていた。 「…まじ、かよ」  乾いた笑いだ。声が声にもならない。頭を抱えるように一人で静かに喉をくっくと鳴らしながら笑う。  どう見てもポスターの写真の人物…彼女だった。  服装と髪型は違う。写真は髪が長くて、可愛らしい格好。  出会った時のシロの髪は肩にかかるかどうかの長さ。男のような格好で、フードを目深にかぶっていて。  この写真の人物を彼女と認識したのは、あのワンピースのせい。  可愛らしい服装をした彼女を俺は知ってしまった。  この写真とぴったり重なる外見だ。  それがあまりにもおかしくて。 「は、はは…」  笑っているうちに視界が滲んだ。路上で頭をかきむしり、しゃがみこむ。  ―――なんだよ、今更。  知っていたじゃないか、どこかで。  このポスター以前にも見ていた。でも、彼女ではないことにした。  そう、シロではない。こんなに女の子のような服装はしない。  だから、そうだ。  この子はシロじゃない。  言い聞かせていた。そうだ、何度も何度も。それなのに。   俺は―――彼女にあのワンピースを買った。  とてもよく似合う、それを。
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