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その日は本屋に行くことができなかった。シロに会わないまま、しばらく日を空けてしまった。
久々に本屋へ訪れると、彼女はあのワンピースを着て待っていた。
逃げたいのに。
本を読みつつ声をかけられるのを待った。
待ってしまった。
「ねえ、暇なら遊ぼうよ」
触れてはならない、握ってはいけない。
大人として、彼女を帰すべきだ。
俺を見つめてくる瞳が、あどけない。胸が締めつけられる。
あぁ、だめだ。
「…今日は、浜辺に行こうか」
俺の言葉にシロはにっこり。
「うん!」
握ってしまう。温かいその手のひらを。
ずきん。胸が貫かれたような痛みを抱えながらも言葉通り、海沿いへ。初めて彼女と遠くへ行った。
二人のドライブは楽しくて。
「わあー!きれい!」
彼女は浜辺に降り立つなり、跳ねては走り回った。秋に移り変わる頃。季節から外れかけているが、空は吸い込まれそうなほどに青く透き通っていた。
「お兄さんも遊ぼうよ!」
「あぁ」
彼女に呼ばれ、俺も浜辺で走る。誰もいない、縛るものも視線もない。彼女は帽子をかぶっていないのに、存分に空を仰いでいた。
なんて幼い横顔なのだろうか。
思わず隣で見つめてしまう。
「…おにーさん」
振り向いたシロは微笑んだ。どこか瞳は寂しくて、何かを求めるように俺を見つめる。
「なんだ」
彼女は手を後ろに回して組んだ。波打つ爽やかな音が耳をかすめる。
どれほど静寂が流れたか。彼女の唇がふいに動く。
「今日は、もっとわがまま…言ってもいいかな」
いつもより小さな声。指先でそっと触れるように脆い声。
「…いいよ」
さあっと風が吹き、ワンピースがたなびき流れる。
「…もっともっと…お兄さんと、遠くに行きたい。いっぱい、遊びたい」
呟く彼女に、微笑んだ。
俺は最低だ。知っているのに、分かっているのに。それなのに。
「―――行こう。もっと、遠くへ」
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