きみはシロじゃない

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 車で、もっと遠くへ。シロは大きめのカバンを持っている。きっと彼女が持っているもの全てが入っている。  どう暮らしてきたのか、見当もつかない。だが今日だけは、日が暮れても別れなかった。  彼女のお金は尽きる間近。あまりに痩せた体に見かねて美味しいものをたくさん買って、一緒に食べた。  人気が少ない場所ばかりを巡り、カラオケで存分に歌い、小さなホテルに泊まった。  うなじが細くて白くて。  風呂上がりの肌に、触れてしまった。  微笑を浮かべた彼女は、はらりと纏っていた寝具を落とす。  弱々しげで可憐な身体。  俺は呼吸を止め、骨の浮き出るその背を見つめた。 「…これ、は」  いくつもの白い傷跡。所々ただれたように赤黒く変色した肌の色。  彼女はぽつんと。 「逃げてきたの」  顔をあげ、うすら悲しげに儚く笑んだ。 「ねえ」  本屋にいるときと同じ声。 「遊んで、お兄さん。私、シロだけど…シロに、なりたくない」  湿った素肌が俺に絡みつく。 「知らないこと、教えて。そしたら私―――」  いけない。  応えてしまったら、きっと彼女は。 「私、もっと…強くなるから、だから…」  震えている肩。抱かずにはいられなくて。  自ら堕ちゆく感覚。まとわりつく熱が思考を狂わせる。  失いたくはない。帰したくない。このまま彼女を、自分の腕に―――。  
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