きみはシロじゃない

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「ここ、か…」  日が暮れかけていた。あの時は朝日を浴びていた。今は夕日が眩しくて。  彼女と別れた河原だ。本屋からは遠かった。感情のみでひたすら駆けて、なんとか。  息を切らす。  ふと、足が止まった。  鮮やかな橙に染まるワンピース。ほのかに青のストライプが風に揺れている。  帽子はしていない。髪は前と同じ長さ。夕日を眺める横顔は、あどけなさが薄れていた。  声が出ない。  視線に気づいたのか、その顔がこちらに向いた。  俺をとらえ、その瞳が丸くなる。  が、やがてふっと穏やかに細まって、 「遅いよ、お兄さん」  その声。その笑顔。 「―――ごめん」  声が震え、わななく唇から笑みがこぼれる。気づけばその体を抱きしめていた。 「会い、たかった」  ふふっと彼女は笑う。 「私ね、強くなった。ちゃんと…ちゃんとしたやり方で、逃げてきたの」  湿った声で抱きしめ返し、 「まだ子供だけど、働いてるの。自分の力で生きるって、決めたの」  華奢な体、触れたかった温かさ。  染み込ませるように強く抱く。 「大丈夫だ」  爽やかな風、眩しく煌めく陽を浴びながら。 「俺がいる。一人じゃない」 「…ずっと?」  うなずく。 「ずっと、ずっとだ」  震える肩を抱き、愛しい髪を撫でる。 「…よく、がんばったな」  彼女は何も言わない。  やがて耳元で微かな嗚咽が聞こえてきた。脆くわななく。  たまらず、繰り返し撫でていた。 「二人で生きような」  こくん。その頭が頷いた。  今度こそ。今度こそ。  この温もりを逃さない。  二度と傷つかないように。  
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