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私が知ってる物語はこうだ
とある宿屋に住み込みの女の子は、母親と2人、慎ましくも幸せに暮らしていた…主人公のアリスちゃん…なんて呼んだら公爵家に殺される気がするがとにかく彼女だ。物語は一応、アリスが第2王子であるレオンハルト殿下と結ばれて、婚約者の公爵家令嬢であるエリザベート様が断罪退場するというのが大まかな流れ。その流れ自体は陳腐の極み
ただ、そうなった背景などを詳しく描写しているその小説は私の涙腺をボコボコにしてくれた…ティッシュ無しでは読めなかった
暴漢は、後に彼女の継母となる男爵夫人に雇われていたことがかなり後の方になって明らかになるのだが…その時のアリスの心情とは
とても美しかった主人公の母は、侍女として働いていて男爵のお手つきになったことがあったのだ
男爵夫人はとてもプライドの高い高慢な人で娘が美人に育っていたのを偶然見つけて許せなかったのだろうと後に取り押さえた騎士団が語っていた
とりあえず、アリスはその家に引き取られ、自分の母親を暴漢に襲わせた女が継母の家で優柔不断で頼りない父には甘やかされ、その影で継母からはかなりひどい仕打ちを受け、複雑な女の子に成長していく…
一方で…エリザベート様
彼女も本来ならアリスと同じ悲劇を経験している、残虐で傲慢で嫉妬深い女の子…の、はずでしたが!
元々天使のような女の子だったという設定は小説にも書かれていた
エリザベート様は、小さい頃に乗っていた馬車が山賊に襲われ、護衛はみんな殺されてしまい、魔法で戦っていた大好きな母親と専属侍女も失い、絶望していたところで、付近にコロニーを形成した強大な魔物の討伐に来ていた騎士団がどうにか気付いて駆け付け1人だけ助かった…という壮絶な過去だ
その後、父親である公爵様を筆頭に公爵家の使用人達が有り余る愛情と同情を注ぎまくりあらゆる叱責を排除し、崇拝から狂信へと発展してしまう…心に酷い傷を負った彼女は歪んだ過保護によりモンスターとなり…
頭の悪い婚約者からいじめとかを断罪され、アリスと始めてきちんと向き合った彼女は、互いに母親を殺された者同士ということでシンパシーを感じ、彼女に謝る…まあ既に公爵家から泣く泣く勘当されて厳しい修道院に連れて行かれる日になんですがね…
前世で私が好きだった、いくつもあった悪役令嬢が愛されるほわほわしたお話。
あれらは要するにヒロインという名の空気読めないだけの身の程知らずの馬鹿女、婚約者がいる男に言いよる尻軽クソビッチとそのクソビッチにメロメロになって浮気を正当化するクズ男共へのアンチテーゼだ
ただ、あの小説は『そういう世界の一連のテンプレ』そのものへのアンチテーゼだったんだと思うのよね
すなわち、傲慢お嬢様にだって背景があるのだと。
婚約者のいる男に平気で近付く馬鹿女の人格など最初から破綻していると。それにももちろん背景があると。
あの小説は、わざと物語そのものは陳腐なテンプレを踏襲し、その背景を濃密に描いた意欲作だった
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