不思議な家

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不思議な家

僕がまだ社会人になって駆け出しの頃、当時勤めていた会社の広告(チラシ)を配る仕事のために会社の同僚のA君と一緒に某県某町に来ていた。 今時、こんなの自分の足で配る業者なんていないよと思いながらも各家庭のポストに広告を入れていくだけなのだが、結構な量を配っていたので時間はすでに深夜をまわっていたと思う。 この時に訪れた町は田舎町とは言え開発中の土地もあったので住民はけっして少ないとは言えなかった。 だけど、それにしても静か過ぎる町並みはなんとも言えない不気味さを醸し出していた。 若干、広告が残っていたのだが、時間も時間だし気温もかなり寒くてあがろうとA君を探す。 しかし、なかなか見つからない。ここは仕方なしにA君の携帯にかける事にした… が、ぜんぜん出ない。携帯の画面見ても向こうが受信しているのは分かるのだが、一向に出る気配がしなかったので、探す事にした。 「A君、出ないな…何処行っちゃったんだ………。」 いつもなら、普通に電話に出る人なので出ないとなると心配になった。 歩き回りながら十五分くらい経って急にリーーーン!と僕の携帯が鳴り出した。 余りにも急だったのでビクッと驚いて携帯の画面を見るとA君からだった。 「もしもし!A君!?どうした?どうして電話出ないの?」 少し怒りが入っていたと思う。 けど、それは心配だったからというのもあった。だけど、肝心のA君は 「……………………………。」 返事があるのかないのか分からず終始無言を貫くつもりか向こうでのリアクションは少なかった。   「おい!返事しろ!どうした?」 相手の無反応に多少苛つきながらも、僕は続けた。 「何処にいるんだ?」 「………………………………。」 おいおい、また無言を決め込むつもりなのか?もういい加減にしろ!と、思った瞬間 「〇〇さんの近くにいますよ」  「え?………何だって?」 すぐに辺りを見回す。 だけどもA君は、いない。 気配すら感じない僕は途端に不安になり出した。 そこで携帯をきらずに会話をしながはA君を探す事にした。 夜道を街灯が照らしても暗く感じる。 三件並んだ住宅を横切り右方向に曲がった時、 「今どこ?近くに何か目印になるものはないの?」 「……………………。」 「………。おい、返事くらいしろよ!」 と、焦り出す僕を尻目にA君は 「す、すいません。ただ〝変わってる家〟を見つけたんで……………………。」 ………。明らかにいつものA君とは様子が違っていました。 「特徴とかは?」 「えっと、窓にカーテンがかかってないんです。」 「は?それだけ?他は?」 「え…後は家の色が灰色っぽいかなぁ…」 「馬鹿!そんなの何処も似た様なもんだろ!」 そう苛ついて歩きながら答える。 「す、すいません!………。あ!ここです!〝見つけました!〟」 どうやら僕をみつけたらしい。 「あ!ほんとだ、こんな近くにいたんだ」 A君を見つけホッとした。思ったよりも彼は近くにいた。 だけど、落ち着いたら〝先程〟の疑問が急に湧いて来た。 「そう言えば〝変わってる家〟を見つけたとか………。」 「え………まあ、変わってるというか…変なんですよ。取り敢えず見てください」 そう言って彼が指を刺す方向に視線を向けると、一見すると普通の家と変わらない感じはしたが、こんな深夜なのにもかかわらず。 どの窓もカーテンがなく街灯と月の明かりで内部は丸見えだった。 しかも、どの部屋も電気をつけていない。 辺りもシーンとしていたし、各部屋が丸見えなのに人の気配がなく奥の方が不気味なくらい真っ暗だったので思わず背筋がゾッとした。 「なんだ?空き家か?」 「でも、なんか生活感ありますよね。ほら下の〝あそことか〟」 下はリビングになっていて、そこは〝つい先程まで〟誰かが使っていたのか、リビングの中央のテーブルの前のテレビは付いていた。 だが、付けっ放しだったのか画面は〝砂嵐〟のような状態で、ここからは届いていないはずなのに〝ザーーーー〟とノイズ音が聞こえる気がした。 「変だな。テレビをつけたまま誰もいないなんて。」 「……………。…………!」 A君が何かに驚いた様子だったので 「どうした?」 A君が指を刺す方向に、先程見ていたテレビの横に、いつの間にか現れたのか何者かの人影を確認することができた。 なんだこの家の住民じゃないか………。と、思ったのだが少し様子がおかしかった。 その〝影〟はその場から全然動こうとしないのだ。 それよりもこちらの様子を伺っているようだった。そこで、僕は咄嗟に 「早くチラシを配るか!」 と、その家のポストに入れようとポストの入り口に目をやった瞬間〝そこ〟にあるはずのないものがあった! 思わず叫びそうになる。A君に至っては腰が抜けそうになっていた。 ポストの入り口の中には、不気味に妖しく光る二つの目が此方を睨んでいた。   「これはやばい!」 とA君が叫ぶのを堪えながら口をあてた時、僕はリビングの人影が左右に不自然なほどユラユラ揺れているのが見えた。なんだか笑っているようだ。 c5669a3f-47f7-46b3-8268-dd7bb3e2b977 「〇〇さん!ここやばいっすよ!逃げましょう!」 「ああ、そうしよう!」   もうそれしか選択肢がなかった。僕ら二人はもうダッシュで近くに止めていた車に乗り込んで、その町を後にした。 自宅に帰宅した際、ドッと疲れが出たのかシャワーも浴びずにそのまま布団に潜り込んでしまった。 次の日の朝、会社に出勤し、いつもどおりの職場に入った時に上司と同僚の何人かが朝早くから職場の中央に集まって何か話し込んでいた。 そのうちの一人が僕に気づき話しかけて来た。   「先輩、あの…何かあったんですか?」 と質問をする。 「Aの奴、今朝、K越自動車道で事故ったんだよ!」 「え!本当ですか!」 「重症みたいでさあ、S病院に運ばれて大変だったんだよ!」 「重症!?入院してるってことですよね?」 「ああ、まあ………そうだが………。」 「先輩………A君に何かあったんですか?」 背中にゾクリと刺されたような嫌な予感がした。 「先程、A君のお母さんから連絡があってね。どこをどう打ったのかわからないけど〝両目〟を負傷したらしいんだよ。結構〝やばい〟状態らしい」 「両目!?」 まさか?と思った瞬間、急に昨日の出来事が頭の中に蘇って来た。 「どうした?何かあったのか?」 と、聞かれたので昨日の晩にA君と二人で見つけた不思議な家の事を伝えた。   「そんな事があったのか………。う〜ん関係あるとは信じ難いな…」  先輩は少し考え込んだ様子だったが対して興味がなさそうな雰囲気だった。 その日の退社後、僕は昨夜のこともあって、いても立ってもいられず急いでA君が入院しているS病院へと向かった。 どうしようもない胸騒ぎがして仕方がなかった。病院の受付に着いた時、僕は自分の名前を伝えて面会をお願いしたのだが断られた。 時間もまだあったのに納得がいかずゴネていると後ろから声をかけられた。 「〇〇さんですか?」 そう呼ばれて振り返った時、そこには憔悴しきった中年の女性が何かの人工物のように立っていた。 一瞬、あの〝家〟で見た不気味な人影を思い出しギョッとしてしまった。 「Aの母です。」    内心ほっとした様子を見られたのか 「すみません。驚かしてしまったようで…」 「い、いえ!大丈夫です!………で、A君は大丈夫なんですか?」 「はい、まだICUにいますけど……今は落ち着いてグッスリ寝ています。」 「そうでしたか…もしものことを考えると…その…」 「はい、お陰さまで何とか〝峠〟は越えたようです。」 「良かった…俺…てっきり……。あ、怪我の方はどうだったんですか!?」 と口に出すのと同時にAの母が 「あの………」 何か言いかけた途端にAの母の顔が今にも泣き崩れそうになる。 「医者からは〝まだ面会が出来るような状態じゃない!〟と言われてまだ会わせてもらっていないんですよ。でも…………。」   と、彼女は言いかけた途端黙ってしまった。 目の焦点が合ってなくてどこか虚な目つきになっていた。 「でも?………どうしたんですか?」 急に不安になり語気を強める。彼女はハッと我に変えるように 「ずっとうわ言のように喋っていたんですって」 「なんと?」 「あの〝家〟がどうとか……………」 「家?…他には?」 「あの〝家〟はやばい!って、あと仕切りにあなたの名前も読んでいたようですよ」 「え!?何で?何て話してたか覚えてますか!?」 急にお腹の辺りがシクシクうずき出す。 一旦、下を向いてから顔を挙げて覚悟を決めたように 「今度は〇〇さん、あなたが狙われる(、、、、、、、、)と…」
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