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俺が娘に「奈津」と名付けたとき
志津は何も言わなかった。
俺と志津と夏美は親友だった、
気づかない訳がないのに。
高校三年生の夏
夏美は名前の通り
夏に美しく逝った。
大量服薬による自殺だった。
思いを告げることも
手をつなぐことも
その身を抱きしめることも
できぬまま。
夏美を失った穴を埋めるように
俺と志津は寄り添い合った。
それも一つの愛なのだと
半ば言い聞かせるように。
春雷の響く夜の病室で
志津は最期にこう言った。
「私とあの娘の分まで奈津を愛してあげて。」と。
奈津も今年15になる。
俺たちが出会った歳だ
「志津、奈津に必要なのはもう俺の愛じゃないよ。」
そう言ってグラスを合わせたあと
俺は薬を飲み込み
静かに目を閉じた。
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