一章 彼女の目玉が大変です。

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 どうやら彼女は二階の自分の部屋にまだいるらしい。  「いつもごめんなさいね。支度が遅くて。どうぞ上がって。だけど、学校に遅刻しないかしら……?」  学校に遅刻することを気にしながら、彼女のママは首を横に傾けておっとりと言う。  「見せたい物かぁ。なにかしら……? あっ、分かった! 松本君、今日、お誕生日なんだ!」  「違います、お邪魔します」  目を輝かせて、分かった! と人差し指で僕を指差すママさんの横をすり抜けて、タイル敷きの玄関に靴を脱ぎ、彼女の部屋に向かう。軽くノックして、ゆっくりドアを開ける。彼女を驚かせないように。なにしろ彼女はすぐに怪我をしてしまうのだ。  「おはよう、松本君。ごめんね、あれ、持ってきてくれた?」  「おはよ、翼ちゃん。来るときに、ドラッグストアで買ってきた。七時半から開いているんだよね」  「ありがとう~! 助かるよ」  翼ちゃんは目を細めて顔一杯でにっこりする。僕はその笑顔にいつも通り、ときめいてしまったけれど、相稜高校で一番可愛いと僕が認定している彼女の左目からは、残念なことに眼球が飛び出てブラブラ揺れていた。
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